ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年11号
CLO
明日のCLOを目指す人たちへ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2003 46 それにともなう借入金の負担にまで関 与しているという意味で、経営そのも のを左右する機能といえる。
企業にと ってロジスティクスの導入は、ある種 の経営改革でもある。
しかし、残念ながら日本企業におけ る従来の物流管理は、輸送コストを下 げるとか、保管コストを下げるといっ た個別業務の改善の域を出ていなかっ た。
日本にロジスティクスを根付かせ ることを標榜している日本ロジスティ クスシステム協会(JILS)の活動 をみても、過去に多くの認定者を輩出 してきた「物流技術管理士」や「国際 物流管理士」の資格講座では、そうし た個別業務の視点でしか物流管理を教 えてこなかった。
だが企業活動のごく一部分だけを対 象に具体策を施しても、得られる効果 は知れている。
財務諸表に表れるよう こうした業務の担当者が役員になるの は珍しいことではない。
卸が情報管理 や物流を戦略的に重視してきたことが 分かる。
同時にこのことは、日本の流 通において情報システムやロジスティ クスが進歩してきた過程で、卸が担っ てきた役割の大きさをも示している。
過去の日本の小売りやメーカーは、中 間流通機能の多くを卸に依存してきた。
しかも日本には歴史的に特有の?魚食 文化〞が根付いているため、欧米のよ うに大手チェーンストアによる市場の 寡占化が進まなかった。
こうしたこと から欧米とは異なる独特な流通構造が 日本で育まれてきたことは、本連載の なかで説明してきた通りだ。
本来であれば、メーカーや小売りに とっても、情報システムやロジスティ クスは極めて戦略的な機能だ。
とくに ロジスティクスは、在庫の管理状況や、 本連載では、川島氏が実践を通じて 培ったロジスティクスの知恵を一年間 にわたって披瀝してもらってきた。
最 終回となる今回は、いまロジスティク スの担当者が留意すべき事柄や、この 分野における人材教育について述べて もらい、連載の締めくくりとする。
ロジスティクスと企業経営 日本では、ロジスティクスや情報シ ステムの担当者の社内的な立場がまだ まだ低い。
米クラフトフーヅでこうし た業務を担当している人たちのトップ は上席副社長の扱いだ。
多くの欧米の メーカーにとってCLO(ロジスティ クス最高責任者)は、CMO(マーケ ティング最高責任者)などと並んで、 CEOに次ぐポジションと位置づけら れている。
これに対して、日本企業で情報シス テムやロジスティクスの担当者が生え 抜きで経営の中枢まで出世するケース は稀だ。
なかでも情報システムの担当 者については、過去二〇年間の大手酒 類・食品メーカーの動きを見る限りそ うした話は皆無に等しい。
ロジスティ クスにしても、役員まで出世したのは わずか数人に過ぎない。
ここで日本企業の人事にケチをつけ るつもりはないが、なぜ、そうなって きたのか考えてみる必要はあるだろう。
結果論に過ぎないが、部門のトップが 役員になるかどうかは、その部門の企 業内での位置づけを大きく左右する。
日本企業にとっての情報システムやロ ジスティクスの位置づけの低さが、人 事に如実にあらわれている。
同じ食品業界でも卸の場合は少し事 情が異なる。
中間流通業者にとって、 味の素ゼネラルフーヅ 常勤監査役 川島孝夫 明日のCLOを目指す人たちへ 《最終回》 47 NOVEMBER 2003 な数値や経営指標を改善できないので あれば意味はない。
逆の言い方をすれ ば、そうした物流管理をいくら積み上 げたところでロジスティクスにはなり 得ないのである。
現代の企業経営者は、ロジスティク スに関する経営指標として、在庫の状 況(棚卸し資産回転率など)や、それ に伴うコストの状況(有利子負債など) を注視する必要がある。
こうした数値 の動きから自分たちのロジスティクス の問題点を自覚し、それを是正すると いう観点で経営を改善していくことが 求められている。
しかも、そこでの評価は、自分たち の過去の実績に対してどうかではなく、 業界水準やライバルと比較してどうな のかを評価しなければ意味がない。
と ころが日本では、ロジスティクスとい う考え方そのものが定着していないこ ともあって、そうした見方をできる人 材が過去に育ってこなかった。
このような人材の育成が急務だとい うことは三、四年前からJILSの関 係者の間でも話し合われていた。
これ を具体化するためにJILSが二〇〇 二年にスタートしたのが、私も専門委 員の一人を務めている「ロジスティク ス経営士」という資格講座である。
この講座の対象者は、企業の経営幹 部やロジスティクス関連部門の管理者 となっている。
具体的な受講資格とし て「部長職クラス」か、または「『物 流技術管理士』または『国際物流管理 士』の資格を取得後、実務を三年以上 経験」という制約を設けている。
ようするに、物流や経営の実務をそ れなりに理解している人材だけを対象 にしている。
その上で、個別の物流管 理業務の解決策を教えてきた従来の講 座とは根本的に異なる観点で、ロジス ティクスに関する教育を行っている。
ロジスティクスの視点で企業経営を変 革できる人材が、この講座から出てく ることを私も願ってやまない。
CLOが注視すべき環境の変化 本連載を通じて、私は「CLOは流 通の変化を見誤るな」と何度も繰り返 してきた。
そこでは二つの点に注意す る必要がある。
一つは、変わるものと、 変わらないものをしっかりと見極める ということ。
もう一つは、変化の方向 性とスピードを知ることだ。
顧客である流通の変化のトレンドが 見えていなければ、流通を通じて製品 を市場に供給するメーカーのロジステ ィクス戦略など立案のしようがない。
そこで今回は「ロジスティクスを取り 巻く課題と今後の取り組み」として、こ の連載で言いたかったことを図1にま とめてみた。
順を追って説明していく。
まず、一番目として「日本の流通コ ストは世界一高い」と書いた。
個々の 企業の取り組みや、個別の製品を見れ ば一概にそう言い切れるものでもない が、ここで言いたいのは流通構造につ いてだ。
詳細は本連載の一〇回目(二 〇〇三年九月号)で説明した通りだが、 メーカーや卸がそれぞれに在庫拠点を 構える「多段階の流通構造」こそが、 日本の流通コストを高どまりさせてい る最大の原因になっている。
そして、こうした流通構造は、今後 も大きくは変わらないと私はみている。
このことは生鮮品を考えると理解しや すい。
寿司屋で刺身を食べることを考 えてみて欲しい。
産地に行けば一匹が ただ同然の値段で手に入る魚でも、寿 司屋では刺身一切れが一〇〇円以上で 売られている。
これが?流通〞というものだ。
加工食品や日用雑貨品については、 欧米流に究極まで効率を追求した流通 を考えることが可能だ。
だが鮮魚を始 図1 ロジスティクスを取り巻く「現状の課題」と「今後の取り組み」 1 日本の流通コストは世界一高い 2 変化する生活スタイルへの対応 (参考資料:「商業統計」と「食料・農業・農村白書」) 1) 単身世帯の増加:全体の25%(過去25年間で30%増) 2) 高齢者の増加:全体の19%(過去25年間で220%増) *ファミリー層の減少:大瓶・大袋サイズの販売減少として顕著 3) 食品スーパーの好調:食品販売総額の約4割(過去10年間で200%増) *総合スーパーの不振:オーバーストア及び生活スタイルの変化による影響 3 一括物流の必要性の増大 (参考資料:「家計調査」と「漁業白書」) 1) 生鮮三品の堅調な消費:家計の食品支出に占める割合が過去10年間、30%超 *特に魚は総食品支出の10%以上を維持(世界漁獲高の20%以上を日本で消費) 2) 調理済み食品の増加:家計の食品支出の10%を超えた(過去10年間で50%増) 4 地球環境・資源保護・環境規制 1) リサイクル・リユースへの取り組み、包材の見直し 2) モーダルシフト:船舶・鉄道輸送の推進 3) 一括物流志向の高まり:温度帯別一括(総合スーパー)、三温度帯一括(食品ス ーパー) NOVEMBER 2003 48 めとする生鮮品の流通を全国的に効率 化するなどといっても現実的ではな い。
現在の日本の食品流通の大半は、 こうした生鮮品の流通を通じて歴史的 に発達してきた卸を軸に動いている。
理屈のうえで欧米流のサプライチェー ンがいかに効率的でも、現実に動いて いる既存の流通のある日本で、これを 塗り替えるのは容易ではない。
従って、今後の日本の流通は二極化 していくと私はみている。
セブン ―イレ ブンやイオンのように自ら積極的に中 間流通の効率化を進めて、究極的なサ プライチェーンを目指すというグルー プが一つ。
これに対して、食品スーパ ーを中心に、卸など既存のインフラを 活用しながら発展していく流通がもう 一つの形態としてできるはずだ。
そして日本の流通の主流は、あくま でも後者の形態になると私は判断して いる。
結果として、日本の流通コスト は今後も世界一高いままの公算が大き い。
このような判断を下すに至った根 拠を、図1の二番目に「生活スタイル の変化への対応」として列記した。
こ れも詳細は本連載の十一回目(二〇〇 三年一〇月号)に書いてある。
一般的なマスコミの取り上げる食品 流通に関する統計は、日本チェーンス トア協会(大手量販店の業界団体)や 日本百貨店協会などのデータに基づい ている。
だが、ここで対象となってい るのは、総額五〇兆円ともいわれる食 品産業の約四分の一の市場に過ぎない。
協会などを通じてしか統計データが揃 わないという事情も理解できるが、そ こから食品産業全体の動きを類推する のは無理がある。
日経新聞が定期的に発表している 「産業天気図予測」でも、今年九月末 の調査で、「スーパー」の景気を前回 に続き?小雨〞としていた。
さらに「食 品の価格競争が厳しく利益押し下げ要 因に」とコメントをしていたが、私は この予測は間違っていると思う。
一部 の入手しやすいデータに引っ張られて、 事実を見誤っているのではないか。
確かに「総合スーパーの不振」が続 いていることに疑う余地はないし、彼 らが食品を強化しようとしながら思惑 通りにできずにいることも事実だろう。
しかし、少し視点を変えて、経済産業 省の「商業統計」や総務省の「家計調 査」の数字を調べていくと、食品産業 は依然として堅調であり、一部では成 長すらしていることが分かる。
実生活 に根付いた情報を総合的に判断しなけ れば、産業全体の動きを掴むことはで きない。
避けられない環境問題への対応図1の二番目までは、時代の状況認 識に関する項目を並べた。
では、こう した判断を踏まえて、ロジスティクス の担当者がやるべきことは何なのか? 私は「一括物流」の必要性が著しく増 大していると考えている。
この「一括物流」という言葉の使わ れ方は人によってニュアンスが異なる。
ここで言いたいのは、あるカテゴリー の商品を中間流通でいったん集め、店 別仕分けの効率を高めることで流通全 体をローコスト化する取り組みだ。
そ の一括物流センターが在庫型であるか、 通過型であるかは本質的な問題ではな い。
一括物流には大きく分けて二つのパ ターンがある。
温度帯(常温、チルド、 冷凍)ごとに輸送車両を分けるパター ンと、三温度帯を一緒に扱うパターン だ。
大手チェーンストアのように大量 の商品を扱うのであれば、前者の温度 帯別が適している。
一方、住宅地に立 地している食品スーパーのようにバッ クヤードの狭い小売り業態では、すべ てを同じ配送車両で運べる後者の方が 望ましい。
小売り店舗への納品について、一つ 興味深い話を紹介しよう。
最近、私は 大阪市の運営する「公設市場」の物流 効率化に携わっている。
公設市場とは 市が土地と建物を提供しているところ に、飲食店や専門店が入居している商 店街のようなものだ。
以前は入居して いる複数の店舗が、まったく個別に運 営されていた。
だが現在では各店が出 資する別会社が全体の運営を担ってお り、民間の食品スーパーのような運営 形態をとっている。
ある公設市場は商店街の真ん中にあ って、朝六時から八時までの二時間で すべての商品搬入を終えなければなら ない。
にもかかわらず、これまでは各 店舗への納入を各取引先ごとにバラバ ラに行っていたため、毎朝何十台もの トラックが列を作っていた。
そしてト ータルでどれだけの物量が動いている かは、誰も把握していなかった。
そこ 49 NOVEMBER 2003 で我々は問屋や取引業者にも協力を依 頼しながら、一日あたり何台のトラッ クが、どれだけの商品を搬入している のかを二週間かけて調べた。
和日配と洋日配に分けて調査したの だが、一日あたりの搬入車両の数は計 六〇〜八〇台に上っていた。
しかも驚 くべきことに、納品貨物の総重量は平 均七トン弱でしかなかった。
搬入路が 狭いため二トン車までしか使えないが、 一括物流の仕組みさえ導入すれば四、 五台で十分にさばける物量だった。
実際、この取り組みでは、いま第二 ステップとして、一部の店舗を対象と しながら一括物流の導入を進めている。
近郊に商品をクロスドッキングできる スペースを設け、対象となる商品を取 引先に一度ここに納品してもらう。
こ こで店別の仕分けを施し、五台程度の 納品車両で各店舗を納品に回るように 変えようとしている。
一括物流センターの運営費は、取引 先にまかなってもらう方針だ。
これま でも取引先は、小売りの店頭まで運ぶ ための人件費などのかたちで納品コス トを負担していた。
この費用をセンタ ーの運営費に充ててもらう。
すでに八 割方の取引先の賛同は得られたため、 あとは段階的に一括納品の対象を拡大 していく方針だ。
よく小売り主導の一括物流では「セ ンターフィー」の存在が問題になるが、 公設市場に参加しているのは、小売り も取引先も中小企業だ。
お互いに助け 合うしか生き残る道はない。
だからこ そ一括物流センターの使用料について も、双方が納得できる料金を話し合い、 誰も犠牲者を出すことなく店舗納品を 効率化しようとしている。
そして、日 配品を効率よく処理できる仕組みがで きれば、将来的にはこのインフラに加 食や日雑品をのせていくことも可能に なるはずだ。
私は、全国にある食品スーパーの多 くは、この公設市場と同じ構図の悩み を抱えているとみている。
そして一括 物流は、?環境問題〞という今後のロ ジスティクスが避けて通れない課題に 対応するうえでも極めて有効な手段と いえる。
これからは環境規制の強化は避けら れない。
包材の再利用によって資源を 節約したり、モーダルシフトを進めて 二酸化炭素の排出量削減に取り組むこ とは、もはや企業の物流部門にとって 必須課題だ。
いま進められているモーダルシフト は、一昔前に国土交通省などが推進し ようとしたそれとは違い、「京都議定 書」などと密接に関連している。
さら に中国をはじめとする海外からの商品 輸入の急増もモーダルシフトの動きを 後押しする可能性が高い。
もはや環境 問題は社会全体にとっても避けられな い課題であるとともに、ロジスティクスの担当者にとって最も戦略性が問わ れる分野になった。
あえて繰り返すが、ロジスティクス の優位性というのは、あくまでも競合 他社との比較のなかで判断すべきもの だ。
その際の判断基準の一つに、環境 対応が入ってきたのは、もはや間違い ない。
CLOを目指す人たちは、こう した点まで視野に入れて、自社のロジ スティクス戦略を考える時代になって いることを再認識して欲しい。
本当に最後になったが、この連載を 読んで意見や感想を持たれた方は、下 記の私のメールアドレスまでご一報い ただければ幸いだ。
一年間にわたるご 愛読に感謝したい。
(かわしま・たかお) 66年大阪外語大学ペルシャ語 学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部 配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁 会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76 年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情 報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常 勤監査役に就任し、現在に至る。
日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師 や敬愛大学経済学部講師などを多数こなし、業界の 論客として定評がある。
※本連載へのご意見やご感想はTakao_Kawashima@agf.co.jpまで。

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