ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2003年3号
メディア批評
球界の盟主が追いつめた敏腕スカウト プロスポーツの暗部に挑まないメディア

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 31 MARCH 2003 「ほとんどのスポーツ・ジャーナリズムが無 視していますね」 四年余り前に自殺したオリックスブルーウ ェーブのスカウト、三輪田勝利のことを書い た六車護著『名スカウトはなぜ死んだか』(講 談社)が取り上げられないことについて、三 輪田の労災認定に尽力した弁護士の川人博は こう語った。
この本を紹介するとすれば、球界の裏金疑 惑等に触れざるをえない。
だから、取り上げ られないのだろう。
著者の六車は早稲田の野球部で三輪田と同 期の、親しい友人だった。
それだけに、なぜ 死んだのだという痛憤の思いに全編が貫かれ ている。
「裏金はいくら求められたのだ。
何がそこま でお前を追いつめたのだ。
オリックス球団の 幹部は何を言ってきたのだ。
それでも死ぬこ とはなかろう‥‥」 繰り返し、こう問いかけながら、著者はこ の本を書いたに違いない。
三輪田はイチローを発掘したスカウトとし て知られる。
だから、イチローは三輪田の葬 儀にも駆けつけたし、著者のインタビューに も応じている。
一九九三年に、読売巨人軍が強引な形で逆 指名を導入した。
それを、「とんでもない改革 だ」と三輪田は怒っていた。
「逆指名からはドラフトの構造が変わったんじゃないか?」 毎日新聞に入ってスポーツ記者となった六 車が三輪田にこう問いかけると、 「悪い方にな」 と三輪田は答えたという。
「選手の周りにはいろんな連中がいるだろう。
そいつらを取り込むのにもまた費用がかかる しな‥‥。
裏金の行き先は、選手じゃなくて 取り巻き連中のふところだもんな」 と六車が続けると、三輪田は、 「そういうことだな」 と肯定した。
ドラフトで指名した高校球児が三輪田たち と会うことも拒否していると聞いて、イチロ ーは三輪田のことを心配し、 「自分はプロ野球でやることが目標だったか ら、どこかの球団でないと嫌というのは理解 できない。
自分だけの気持ちではなく、周囲 に影響されているのではないですかね」 という談話をスポーツ紙に寄せている。
この本の第二章は「税込み一億円の裏金」。
そこで著者は、「逆指名選手を獲得する資金 の一人平均は三億円、つり上げているのは、 二、三の球団」との関係者の証言を引く。
「二、三の球団」に読売巨人軍が入ることは まちがいないだろう。
球界の盟主のそのジャ イアンツがつくりだす暗部が三輪田を追いつ めた。
あるいはイチローはそれを嫌ってメジャー に行ったのかもしれない。
その暗部に挑もうとしない日本のスポーツ ジャーナリズムが、しかし、皮肉にも、三輪 田の労災認定には役に立った。
弁護士の川人 が六車にこう語っている。
「自殺が労災認定されるかどうか難しいのは、 その原因が外からはなかなかうかがい知れな いからです。
ところが三輪田さんの場合は彼 が追い詰められていった外形的なものが日々、 リアルにマスコミによって報道されました。
雨の降るなか、のべ六時間も選手宅前で立ち 尽くしていましたね。
(仲介人から予想外の話 が出て)代表に怒られました。
それらは言っ てみれば実況中継のようなものでした。
それ に毎日欠かさなかった(夫人の)民子さんと の電話のやり取り、これはいけるかなとの感 触がありました。
それに労災認定基準の緩和 の動きという時代の流れがありましたね」 ちなみに、この選手は今年、ダイエーホー クスに入った新垣渚である。
沖縄水産高校か ら九州共立大を経て新垣はダイエーに入った。
球界の盟主が追いつめた敏腕スカウト プロスポーツの暗部に挑まないメディア

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