ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年12号
ケース
加藤産業 SCM 独自のWMSとハンディ端末の活用でオペレーションの標準化と高度化進める

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2013  66 独立系食品卸の立場を堅持  総合食品卸四位の加藤産業は、業界最大 手の三菱食品や、二位で伊藤忠商事系の日本 アクセスなど、総合商社を軸とする食品卸の 集約が進む中で、国分と共に独立系大手卸と しての立場を維持してきた。
 総合商社からの出資は受けている。
その出 資比率は筆頭株主でもある住友商事の八・五 七%をはじめ、三井物産が八・二六%、三 菱商事が四・六八%と決して小さくない。
し かし、全方位外交によって特定の総合商社の ?色?が付くのを避け、小売チェーンとの取引 に制約が生まれることを防いでいる。
 業績は堅調だ。
二〇一三年九月期の連結売 上高は前期比一・八%増となる七三三一億円。
営業利益は同七%減の一〇三億円で前年実績 を割り込んだが、営業利益率は一・四一%と 依然として業界では高い水準にある。
 二〇年近く前から、物流と情報システムの 高度化を積極的に推進してきた。
一九九六年 に独自のWMS「KALS」を開発。
全国の 物流センターに展開して業務を標準化し、ノ ウハウの蓄積や共有化を図っている。
 〇六年には発注管理システム「PARS」 を稼働させた。
この仕組みの中で「KAL S」は、商流系基幹システムの「KOSMO S」や、需要予測システムの「CPM」と共 に、構成要素の一つと位置付けられた。
 物流を重視する姿勢は人事からもうかが える。
同社の加藤和弥社長は一二年一二月、 社長職と兼務する形で、ロジスティクス部と 情報システム部を統括するシステム本部長に 就任している。
 加藤社長は「KALS」を開発・導入した 九〇年代後半にロジスティクスの責任者を長 らく務めた経験を持ち、その後も〇三年に社 長に就任するまでシステム本部長の職にあっ た。
再登板は前任者の退任を受けてのことだ が、同社が経営レベルでオペレーションを重 視していることを如実に示している。
 加藤産業は九〇年代半ば以降、小売チェー ンの専用センターの運営事業に積極的に取り 組んできた。
現在は顧客数二一社、四〇カ所 の拠点を運営している。
この中には汎用セン ターの一部を専用センターとして利用してい るケースも含まれているが、汎用センターを含 む同社の物流拠点数は計七〇カ所であり、専 用センターの構成比が高い。
 同社は中間流通業者として、流通工程をど れだけシンプルにできるか、流通上の在庫を いかに低い水準でコントロールできるかを常に 追求してきた。
だからこそ全国十一支社の管  独自開発のWMS(倉庫管理システム)で全国 70カ所の物流拠点の業務を標準化、柔軟性の高 いハンディ端末の活用をベースに作業を組み立て、 PDCAサイクルを回している。
さらにはWMSを基 幹システムと連携させて鮮度管理を徹底し、在庫 の陳腐化や廃棄を未然に防いでいる。
SCM 加藤産業 独自のWMSとハンディ端末の活用で オペレーションの標準化と高度化進める 加藤産業・ロジスティクス部 の日比啓介部長 67  DECEMBER 2013 理下に汎用センターを構えている。
その一方 で専用センターも積極的に展開してきた背景 には、こうした取り組みでも流通を効率化で きるという加藤産業なりの信念がある。
柔軟性を重視しハンディ端末を多用  現場のオペレーションでは柔軟性を重視し て、大規模なマテハン活用とは一線を画して きた。
全国の物流拠点のうち、現時点でパレ ット自動倉庫を導入しているのは三カ所だけ。
ケース自動倉庫に至っては一つもない。
その 代わり無線LANを介して動くハンディ端末 をフル活用している。
商品の入出庫や在庫管 理、棚卸、さらには現場の作業管理に至るま でハンディ端末で処理している。
 「KALS」の主要機能であるWMS自体、 ハンディ端末の全面活用を前提に設計してあ る。
同システムの開発に当たっては当初、市 販のWMSパッケージの利用も検討した。
と ころが加藤産業の業務内容に合わせてカスタ マイズすると、ゼロから開発するのと同レベル の費用が掛かると分かった。
そこで数十億円 を投じて「KALS」を自社開発した。
この 決断が、システム上にノウハウを蓄積すること へとつながった。
 同社の日比啓介ロジスティクス部長は、「そ れ以前の当社の物流現場は全てが作業者の経 験や記憶、判断に基づいていた。
これをシス テムに任せ、ハンディ端末に無線で指示を出 すようにした。
このとき『作業管理システム』 の機能も組み込み、どの作業者が、どういっ た業務を、どれだけやったのか時系列で把握 できるようにした」と当時を振り返る。
 九〇年代末には、こうした管理手法に磨き をかける狙いで、大手コンサルティングファー ムと組んでABC(アクティビティ・ベース ト・コスティング=活動基準原価計算)の導 入プロジェクトを実施した。
この活動はその 後、抽出された課題を基に改善活動を行うA BM(アクティビティ・ベースト・マネジメン ト)へと歩みを進めていった。
 その延長線上の活動として、〇八年からは 業務の「予実管理」を強化している。
「庫内 運営コストの見える化」と称して、業務ごと の物量や作業時間、生産性、必要人数などの 「予定」をあらかじめシステムに入力し、これ をハンディ端末に蓄積される「実績」と比較 することで業務改善に役立てている。
 「予定」と「実績」に差があるようなら、原 因となった問題を特定して具体的な改善策を 需要予測システムやWMSなどで構成される「PARS」と構成システムの機能 ※CPM(Category Profit Management)…需要予測システム ※KOSMOS(Kato Operation Support and Management Optimizing System)…商流系基幹システム ※KALS(Kato Advanced Logistics System)…物流情報システム PARS(Professional Advanced Replenishment System)‥‥先進的補充発注システム CPM KOSMOS KALS 出荷実績 データ 需要予測数算出 CPMアラート情報作成 KOSMOSアラート情報作成 出荷実績入荷予定 基準在庫数計算 出荷実績データ 需要予測数 発注数量確定 CPM 作成アラート ●予測精度アラート(一定期間の予測と実績の誤差:大) ●異常値アラート(一部の日に出荷が集中) 直近予測精度アラート(直近の予測と実績の誤差:大) 低頻度アラート(低回転商品) ●アラートなしアイテム=推奨値で発生する  (発注対象アイテムの7 割程度) ●アラートアイテム=RCが検討して発注する  (発注対象アイテムの3 割程度) + 在庫実績 在庫数 発注推奨値 基準在庫数 連結業績と棚卸資産回転期間の推移 売上高(億円)・営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 98 年9月 99 年9月 00 年9月 01 年9月 02 年9月 03 年9月 04 年9月 05 年9月 06 年9月 07 年9月 08 年9月 09 年9月 10 年9月 11 年9月 12 年9月 13 年9月 棚卸資産回転期間(カ月) 売上高(億円) 営業利益(千万円) 施す。
改善後には効果の検証も行う。
こうし てPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アク ション)サイクルを回すことで、作業品質の 向上やローコスト化を進めている。
 「作業管理にまでシステムを活用できるの は、全ての業務にハンディを使っているから。
『KALS』を開発した時の基本方針を変え ずに、多くの機能を加えることで進化させて きた。
ノウハウが蓄積されたシステムを持っ ていることは、お客様の多様なニーズに迅速 に応えることにもつながっている」と日比部 長は説明する。
鮮度管理に工夫を凝らす  食品卸にとって欠かせない鮮度管理の機能 も「KALS」の特徴の一つだ。
加工食品の 流通では、いわゆる?三分の一ルール?に類 する取引慣行が横行している。
製造年月日か ら賞味期限までの期間の三分の一以上を過ぎ た商品を受け付けないという商慣習だ。
その 善悪は別にして、顧客である小売業者がそれ を望む以上、卸は対応せざるを得ない。
 以前は、先に納入された商品から順番に出 荷する「先入れ先出し」だけで対応していた。
しかし、メーカーが納品してくる商品の賞味 期限が逆転している場合もある。
また、セン ター運営を効率化するためにフリーロケーショ ン制を導入すれば、「先入れ先出し」の運用 そのものが難しくなる。
システム化による厳 密な日付管理が欠かせなくなっていた。
リシーを持って実施している」と日比部長は 胸を張る。
 物流現場で使うツールやシステムの高度化 は今も続いている。
例えば同社が独自開発し たピッキング台車は、最近になってさらに進 化した。
カートに積んだ六つのオリコンへのピ ッキングを同時に処理するものだが、重量検 品の機能を付加して精度を高めた。
「ハイパー  「KALS」は九六年の稼働時からその機 能を備えている。
顧客ごとに指定される商品 の「出荷期限日」をシステムに登録。
そこか ら逆算して「入荷期限日」を設定し、加藤産 業の物流センターに「入荷期限日」を過ぎた 商品が納品されるのを防いでいる。
 メーカーが納品してきた時点でチェックし て、入荷済みの商品より古い日付のものは受 け付けない。
日付の逆転はいまや物流上のミ スと見なされる時代になっている。
賞味期限 が十分に残っている商品でも、既に納入済み の同じ商品より製造年月日が古ければ、やは り顧客の多くは受け入れてくれない。
 こうした鮮度管理システムは、顧客の厳し い要求から加藤産業自身を守ると同時に、ま だ十分に実用に耐え得る商品を無駄にしない ためにも活用されている。
「KALS」では、 センター内の在庫が「出荷期限日」を迎える 前に、社内で処理すべき「出荷検討期限日」 を独自に定めている。
「検討期限日」になる とシステム上でアラームが出されて、早急に販 売などを検討できるようになっている。
 「商品の期限切れが近づくと、卸はすぐにメ ーカーに返品するといった話をよく聞く。
し かし、我々の思想として、むやみに返品した りはしない。
在庫として買った商品には責任 を持ち、売るための行為をきちんとやってい く。
そのためには、お客様との約束の期限が 来る前に対応しなければならない。
こうした 鮮度管理を、『KALS』を作った時からポ DECEMBER 2013  68 全社共通のWMS「KALS」で物流現場を管理している KALS の特徴 スキャン検品 システム 鮮度管理 システム 無線LAN システム 作業管理 システム 1 2 3 4 ?EDI 体制の確立により『事務作業を軽減』 ?『納品精度をより確実に、スピーディ』に ?在庫管理の業務制度が向上 ?賞味期限の入力により、入荷期限日と  出荷期限日を同時管理 ?常に鮮度をチェック ?入荷〜出荷まで業務管理を効率化 ?作業が正確で、各業態に応じて対応可能 ?情報処理のスピードと精度アップ ?作業者管理を徹底し、物流業務を効率化 ?確実な情報で即決即断が可能 物流機能活用のメリット センター業務の合理化、効率化 リードタイムの短縮 店舗オペレーションの合理化 納品率の向上 商品鮮度の向上 に六輪カートがベースになっている」  このカートを使えば、店舗やカテゴリーが 混在するピッキングを一度にこなせる。
ただ し、オリコン六個を一度にピッキングすると なると、それなりの重量になり作業者の負担 も出てくる。
この点は、作業を完了したオリ コンを流すコンベヤをピッキングエリア近くに 敷設するなどして対応している。
オリコンは 最終的に、顧客の指定するカートやドーリー などに再び積まれて出荷されることになる。
商流への理解を武器に差別化  加藤産業は長期経営計画の数値目標とし て連結売上高一兆円の達成を掲げている。
し かし、これまで同社の成長を支えてきた小売 りの一括物流の導入は既に一巡している。
有 力チェーンは既に専用センターを設置済みで、 今後は新設ではなく、拠点集約に伴うリニュ ーアルなどが中心になってくる。
既存の運営 事業者や3PLなどとの厳しい受託競争を強 いられることになる。
 この状況に対応するため、加藤産業は一〇 年ほど前から商流と物流を明確に区分してビ ジネスを展開してきた。
商流では提案力を磨 き、物流では機能を高度化することで、それ ぞれに事業を拡大していこうとしている。
 物流部門としては、卸として商流を熟知し ていることの優位性を、センター運営におい ても最大限に発揮したい考えだ。
営業に絡む 小売チェーンとの情報共有や、メーカーと直 接交渉をできる立場にあること、さらには欠 品発生時の迅速な商品の手配など、卸ならで はの情報活用といった物流専業者には真似の できない領域で差別化していく。
 小売業者が一括物流の導入によって実現し ようとしてきたことは、時代と共に少しずつ 変化していると日比部長は言う。
 「当初の目的は、物流コストを下げることだ った。
それが徐々に店頭起点の物流ニーズを 満たすことへと変わってきた。
商品を安く持 っていくだけでなく、店舗での作業負担の軽 減や物流品質などが重視されるようになって いる。
場合によっては、そのために後方の物 流センターのコストが上がってしまうことも あるが、何よりも流通全体を最適化していく ことを求められるようになってきた」  顧客ニーズの変化に伴って物流事業担当者 に求められるスキルも変わっていく。
商流を理 解している優位性を生かして物流を効率化で きるかどうも、結局は担当者の手腕に掛かっ ている。
だからこそ「物流管理者の育成はず っと続く課題だ」と日比部長は強調する。
 ロジスティクス部が主体になって二カ月ごと に開催している「物流会議」では、支社の物 流担当者が集まって改善事例などを共有して いる。
専用センターの関係者向けの会議や研 修も頻繁に実施してきた。
どれほどシステム を高度化しても、それを使いこなし管理する のが人であることだけは、いつの時代も変わ らない。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) ピッキングカート」という名称で一三年十一 月に意匠登録を申請済みだ。
 マテハンメーカーが市販している一般的な ピッキング台車と少し形状が異なる点につい ては、日比部長は次のように説明する。
 「当社はもともと、得意先が指定する納品 用のカートやカゴ車にハンディ端末を組み合わ せてピッキング作業をこなしていた。
これを 店舗にそのまま納品することで積み換える工 程を省くという発想だ。
そこからオリジナル のカートを進化させてきたため、現在のよう 69  DECEMBER 2013 6 輪カートをベースとする最新のピッキング台車 ●商品スキャナー  無線型のスキャナーで 商品のバーコードを読み 取り、ピッキング指示と の照合を行う。
●操作モニター  無線LANにて管理システ ムと接続し、ピッキングデー タ受信、スキャナーとプリン タのBluetooth接続、ピッキ ング指示の表示、完了操作 を行う。
「スキャン検品」に加え、「重量検品」も並行して 実施し、オリコンの誤投入(投入間違い)を0に!! 納品精度の向上 ●コンパクトプリンタ  仕分け・配送用の店 舗ラベルを自動出力。
●DPSランプ  仕分け先のコンテナ に該当するランプを点滅 させ、スキャン後にはボ タン押下によってピッキ ングを完了させる。
●計量機  コンテナの下6カ所に設 置し、ピッキング指示と現物 商品の重量の照合を行う。
1gの感度で計測可能。

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