ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年11号
特集
第6部 国際クール宅急便のマーケティング

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2013  34 ブルーオーシャンを攻める  一〇月二八日、ヤマト運輸は「国際クール宅急 便」のサービスを開始した。
日本各地で集荷した 生鮮品を翌日に香港の消費者宅まで届ける。
温度 帯は「冷蔵(二℃〜一〇℃)」「冷凍(マイナス一五℃ 以下)」の二つ。
料金は通常の国際宅急便の運賃 に、「クール付加料金」を加算する。
クール付加 料金は「六〇サイズ(縦横高さの合計が六〇?以内、 重量二?まで)」で四〇〇〇円に設定している。
 同社で国際宅急便や海外における宅急便事業者 の国際事業を担当するグローバル事業推進部の梅 津克彦部長は「国際クール宅急便は、インテグレ ータによる国際宅配便やEMS(国際スピード郵 便)とは全く異なる商品だ。
国際宅配便市場で当 社はこれまで後発だった。
しかし、クールを始め たことで、当社はブルーオーシャン(競合のいな い市場領域)のトップランナーに立った」と胸を 張る。
 国際宅配便市場は、独DHL、米フェデックス、 米UPS、蘭TNTの欧米インテグレータ四社に よる寡占状態が続いている。
日本発着も同様で、 DHL、フェデックス、UPSの上位三社で七割 程度のシェアを握っていると推測される。
いずれ も大量の貨物航空機を所有し、独自のネットワー クを世界中に張り巡らしているグローバル企業で、 その事業規模はヤマトをはじめ日本の物流大手の 比ではない。
 一九九〇年代末までインテグレータは日本での 集配を日本の宅配会社に委ねていた。
ヤマトはU PSと合弁企業を設立し、「UPS宅急便」の名 称で日本発の国際宅配便を運営していた。
しかし、 二〇〇〇年代に入 ってインテグレー タ各社は日本にお ける独自集配網の 構築を本格化。
こ れに伴いヤマトと UPSの合弁も二〇〇四年に解消された。
 ヤマトにとってUPSとの合弁は海外ネットワ ークの確保というメリットを得た半面、自らの海 外進出を停滞させることにもなった。
実際、アジ アの主戦場となる中国の宅配便事業進出では佐川 急便に後れを取り、フォワーディングをはじめと する国際物流では他の日系大手の後塵を拝した。
 現在もヤマトホールディングスの連結売上高に 占める海外売上比率は一・八%に満たない(一三 年三月期)。
しかし、同社は二〇一九年を目途と する長期経営計画で、海外比率を二〇%超に拡大 する目標を掲げている。
 その鍵を握るのが「沖縄国際物流ハブ」だ。
那 覇空港を起点にアジアの主要都市間をピストン輸 送するANAの航空貨物ネットワークを利用して、 宅急便の翌日配達エリアをアジアの主要都市に拡 大する。
 昨年十一月に「書類(一?以下のドキュメント 類)」を対象とする国際宅急便で運用を開始。
今 年五月には「一六〇サイズ(縦横高さの合計が一 六〇?以内、重量二五?以下)」に対象を広げた。
運賃を据え置いたまま、日本の各都市と、香港、 台湾、上海、シンガポール、マレーシアを最短翌 日で結び、それまで三、四日掛かっていたリード タイムを大幅に短縮した。
 もっとも、インテグレータは以前からアジア圏 国際クール宅急便のマーケティング  日本各地で収穫した生鮮品を海外の個人宅に翌日配送する 「国際クール宅急便」がスタートした。
これまで存在しなかっ た物流サービスによって新たな需要の創造を図る。
海外インフ ラの構築は大事業になる。
それでもアジアの成長を取り込んで、 出遅れていた海外事業を一気に挽回する考えだ。
  (大矢昌浩) グローバル事業推進部の 梅津克彦部長 6 35  NOVEMBER 2013 初日に用意した一〇〇個を完売したという。
一〇 月現在、北海道の蟹、青森のリンゴ、長野の梨、 高知の柚、鹿児島のブリなど、一六道府県の五七 品目を取り扱っている。
 梅津部長は「各地の生産者のところまで集荷に 行って、海外の個人宅に届けるというのは当社に しかできないサービス。
しかも当社は不在対応や 返品、集金にも対応する。
生産者の方たちに良い 物さえ作ってもらえれば、後の流通は全て我々に お任せいただける。
現在、安倍政権は農産物の輸 出を現在の四五〇〇億円から一兆円に増やすとい う成長戦略を掲げている。
それを我々は国際クー ル宅急便で物流面から支援していきたい」と抱負 を述べる。
インテグレータとは真逆の設計  インテグレータの国際宅配便はドキュメント類の B to Bをベースに設計されている。
国際間輸送や 通関処理には長けているが、個人宅の集荷や配送 には対応できない。
それに対してヤマトは、アジ アの主要都市にC to Cをベースにした宅急便を普 及させることから着手し、各国の宅急便を結ぶと いうプロセスでネットワークの整備を進めている。
同じ国際宅配便でもアプローチが全く逆だ。
 日本で宅急便は郵便小包や鉄道小荷物の対抗商 品としてスタートした。
当時の取扱個数は郵便小 包が一億八〇〇〇万個、鉄道小包が七〇〇〇万 個で、合わせても二億五〇〇〇万個程度だった。
それに対して宅急便の初年度(一九七六年)の取 扱個数は約一七〇万個。
それが現在は約一五億個 まで増えた。
業界全体では約三五億個だ(一二年 度)。
内の翌日配達を実施している。
リードタイムとい う点では、ようやくヤマトはインテグレータと同 じ土俵に立てたにすぎない。
タリフに多少の優位 性はあっても、翌日配送の対象エリアはヤマトが 現地で宅急便事業を展開しているエリアに限られ るという制約もある。
クール便を開始することで、 初めて国際宅急便は商品力を発揮する。
新たな需 要を創造することができる。
 ヤフー香港は六月、「ヤフー!スーパーマート」 と名付けたECサイトを立ち上げた。
現地の富裕 層や日本人在住者を対象に、日本各地の特産品を 産地直送で輸入販売している。
ヤマトが国際クー ル宅急便の本格販売に先行して、その運営を担っ ている。
 売れ行きは好調だ。
JA宮崎経済連が販売した 宮崎牛は二三〇グラムで三八八香港ドル(約五〇 〇〇円)という高額品ながら、サイトに掲載した  宅急便の登場が新たな物流需要を掘り起こした。
そのインフラが産直や通販などの新たなビジネス を可能にし、それまで存在しなかった物流サービ スによって利用者間の取引が活発化した。
同じこ とを今度はアジア全域を舞台に、国際宅急便で仕 掛ける。
 もっとも、宅急便の国内インフラの構築には三 〇年近い年月が掛かっている。
アジアの経済成長 はそれだけの時間をとても待ってはくれないだろう。
そのため梅津部長は「日本のように当社単独でア ジア全土にネットワークを作るというのは現実的 ではない。
海外ではアライアンスを組むしかない」 と言う。
 国際クール宅急便もヤマトだけでは成立しない。
幹線航空輸送を担うANAはもちろん、各国の通 関・検疫体制が整わなければ運用を開始できない。
顧客に約束したリードタイムを順守できないだけ でなく生鮮品を駄目にしてしまう。
今回の香港の ほか、現地に宅急便のネットワークを敷いている 台湾(統一集団との提携)、シンガポール、マレー シアは受け入れ側の協力も得やすいだろう。
しかし、 上海をはじめ中国大陸はかなりハードルが高い。
 海外の宅急便事業自体、収益に貢献するように なるまでには、相当な時間を要するはずだ。
それ でも梅津部長は「もちろん当社としても事業の採 算は考えている。
しかし、ブルーオーシャンだか ら過去の統計はないし、全てを読み切れるわけで もない。
それでもアジアの中間所得層がこれから 台頭していくのは間違いない。
事業の方針と戦略 がきちんと立っているのであれば、やってみろと いう風土が当社にはある」と手を緩めるつもりは ない。
ANAグループの「沖縄貨物ハブ」。
来年にかけて路線網を現在の8都 市から11、12都市に拡充する計画だ。
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