ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年10号
ケース
レノボ 欧米SCM会議㉛ 1万人のSCM部隊をデル出身者が牽引5つのKPIでグローバル物流を最適化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2013  72 社員の三分の一以上がSCM部門  我々レノボ(聯想集団)は中国では高い知 名度を誇っていますが、アメリカやヨーロッパ などの成熟市場では、まだまだ馴染みの薄い パソコン(PC)メーカーだと思います。
そ のためまずは当社の沿革からお話しさせてい ただきます。
 当社の創業は一九八四年で、現在名誉会 長を務める柳伝志(Liu Chuanzhi)に、中国 政府がPCの輸入業務を始めるように要請し たことから始まります。
その時に母体となっ たのは政府系研究機関の中国科学院で、九二 年から自社でPCの製造を開始し、九四年に 香港株式市場に上場しました。
 現在の会長兼CEOで当社の成長の牽引役 となった楊元慶(Yang Yuanqing)が入社 したのは八九年のことでした。
九七年に役員、 二〇〇一年にCEOに就任し、〇五年にIB MのPC部門の買収が完了した後、いったん CEO職を離れて会長に退きますが、当社が 赤字決算に陥った〇九年に再びCEO兼会長 として現場に復帰し、人員削減も含めた会社 の立て直しを行い現在に至ります。
 私自身は、アメリカの西海岸の大学で財務 を勉強した後、IT系の二つの会社を経てデ ルに入社しました。
デルでは十一年働いて、 〇六年に当社に移りました。
以来、グローバ ル・サプライチェーン(GSC)部門の上級 副社長(senior vice president)として働い ています。
CEOを含む当社の九人の「マネ ジメントチーム」のうちの一人です。
 現在、私が率いるGSC部門には世界で一 万人以上の従業員が働いています。
全従業員 の三分の一以上がSCM部門に所属している ことになります(図1)。
 当社のサプライチェーン業務が同業他社と 一番違う点は、その業務範囲がエンド・ツ ー・エンドかつ包括的であることです。
通常  IBMのPC部門を2005年に買収したのを機に、 NECとの合弁や独メディオンの買収などで世界 市場に果敢に攻め込み、ついにPCの世界シェ アでトップに立った。
総勢1万人に上るグローバ ルSCM部門がそのオペレーションを支えている。
デルから引き抜かれて同部門の指揮に当たって いるジェリー・スミス上席副社長が同社のサプラ イチェーン戦略を解説する。
欧米SCM会議㉛ レノボ 1万人のSCM部隊をデル出身者が牽引 5つのKPIでグローバル物流を最適化 企業名 レノボ(聯想集団) 本社 中国 北京 創業 1984 年( 当時の社名はレジェンド) 会長兼CEO 楊元慶(Yang Yuanqing) 売上高 338億7300万米ドル (3 兆3873億円) 最終損益 6 億3500万米ドル 従業員数 約2 万7000 人 (注1)数字は2013 年3月期の年次報告より (注2) 1ドル=100 円で換算 組織概要 図1 グローバル・サプライチェーン部門の組織図 グローバル・サプライチェーン部門 新興市場: 顧客への出荷 &セールス活動 グローバルな 調達 製造& エンジニアリング 世界的な計画 グローバル・ ロジスティクス戦略と実行 成熟市場: 顧客への出荷 &セールス活動 世界的な サプライチェーン の実行 ビジネスの変化 /IT モバイル・インターネット、 デジタル・ホーム部門の サプライチェーン 財務部門 人事部門 法務部門 73  OCTOBER 2013 だと営業部門や生産部門などがそれぞれ部門 ごとにサイロを形成して、業務を効率化する ことが難しくなってしまうのですが、当社に はそうしたことがありません。
 現在の当社のサプライチェーンの概要は図 2の通りです。
自社工場は中国の五カ所を含 めて世界十二カ所にあり、そのうち日本の米 沢工場はNECとのジョイントベンチャー企 業(レノボNECホールディングス)が所有し ています。
今後は、中国の合肥やアメリカの ノース・カロライナ州にもジョイントベンチャ ーや自社で工場を作っていく計画です。
 こうした世界一〇数カ所の工場を基点に、 ベンダーが管理する在庫型のハブセンターやク ロスドッキング用センターなどを配置していま す。
利用している3PL企業は、UPS、ド イツポストDHL、オランダのCEVAロジ スティクスなどです。
このサプライチェーンを 通して年間三〇〇〇万台近いPCや携帯電話 などを供給しています。
 当社が世界的なPCメーカーへと大きく飛 躍するきっかけとなったのは、〇五年にIB MからPC部門を十二億ドル強で買収したこ とでした。
これによって当社は、IBMの人 気ノートパソコン「ThinkPad」など の製品を手に入れました。
 次の大きなステップは、一一年に実施した NECとのジョイントベンチャーの立ち上げで す。
当社が五一%、NECが四九%を出資し て、レノボNECホールディングスを設立し、 両社の日本国内におけるPC事業を統合しま した。
さらに同年八月には、ドイツのPCメ ーカーであるメディオンの株式の五一%を取 得して傘下に収めました。
 こうした積極的なM&Aが功を奏し、一一 年第1四半期には、レノボはPCの世界シェ アで私の古巣であるデルを抜いて、 ヒューレッ ド・パッカードに次ぐ第二位となりました。
こ れは当社にとっても、私自身にとっても感慨 深い瞬間でした(編集部注:米調査会社ID Cによると、二〇一三年第2四半期にレノボ のシェアはHPを抜き世界トップに立った)。
 現在の当社の売上高を地域別に見ると、本 国である中国が全体の四二%、北米・欧州・ 日本などの成熟市場が同じく四二%、次い でインド・ブラジル・ロシアなどの新興市場 が一六%となっています。
いずれの市場でも、 業界平均を上回る成長を果たしています。
 また、製品別の売上高は、ノートブック型 PCが全体の五七%で、デスクトップ型が三 三%。
そのほか、スマートフォンなどの携帯 電話やタブレット型の携帯端末などの「モバ イル・インターネット」と、スマートテレビな どの「デジタル・ホーム」がそれぞれ五%ず つです。
この「モバイル・インターネット、デ ジタル・ホーム部門」は今後大きく伸ばして いきたいと考えている分野です。
世界一のサプライチェーン目指す  当社は今後も引き続きM&Aを駆使して成 長のスピードを上げていくつもりです。
それ には明確な戦略が必要です。
様々な国籍の従 業員が集まり、異なるバックグランドを持っ た従業員たちを束ねるには、分かりやすいビ ジョンが不可欠なのです。
 私が当社に参画してからことですが、コン サルティング企業を利用して当社のビジョンと 戦略を作ったことがありました。
一〇ページ にまとめられて、見た目は非常に良かったの ですが、内容が盛りだくさん過ぎて全社員が 図2 レノボのサプライチェーン 東京 NEC 上海 東京 北京 成都 チェンナイ ポンディシェリ マトラビル ドバイ シンガポール 南アフリカ モスクワ ヘルシンキ フェンロ イスタンブール シャールバール 欧州の フルフィルメントセンター アメリカの フルフィルメントセンター カナダ カラカス ボゴタ モンテレー 北西海岸 リャマ カンピナス ブラジル アルゼンチン ブエノスアイレス 恵洲 深圳 製造工場 ベンダーが管理する在庫ハブセンター 荷受け地点/付加価値センター 在庫を持つ倉庫 クロスドッキングのハブセンター 貨物の混載地点/付加価値サービス 共有することはできませんでした。
そこでこ れを一ページにまとめることにしました。
 現在の当社のビジョンと戦略は、「プロテク ト(守備)」と「アタック(攻撃)」の二つか ら成り立っています。
「プロテクト」には二本 の柱があります。
一つは中国市場でPCのシ ェアを伸ばし利益率を高めること。
もう一つ が成熟市場においてシェアを伸ばすことです。
 「アタック」も同様に二本の柱があります。
一つは「モバイル・インターネット、デジタ ル・ホーム部門」の存在感を世界的に広める こと。
もう一つは新興国市場において、前年 比一〇%の成長を果たすことです。
 「プロテクト」と「アタック」の内容は、経 営環境の変化に合わせて順次変更していきま すが、それを簡潔にまとめることで、会社が 今どこを目指しているのかという点について、 全社員が共通認識を持つことが容易になりま した。
 当社のようにM&Aで成長してきた企業は 往々にして業務統合に手間取ります。
そのた めにM&Aの成果を上げることができないで いる企業も少なくありません。
しかし当社は、 この一ページの戦略とビジョンを経営と日々 の業務の中核に据えることで、全社を挙げて 前進する企業文化を作り上げているのです。
 この戦略とビジョンに合わせて、「GSC部 門のビジョンと戦略」も作りました。
ビジョ ンは「最高の顧客体験を与えることでPCな どの分野で世界一のサプライチェーンを構築  このことはリスク管理とも密接に結び付い てきます。
一〇年三月に起こったアイスラン ドの火山の爆発がサプライチェーンの大きな障 害となったことは広く知られています。
一一 年三月の日本の地震、同年十一月のタイにお ける洪水でも同じことが起きました。
 こうした非常事態に直面しても、製品の 供給を止めることは許されません。
特にPC 分野は競争が激しく、一瞬でも気を緩めれば、 同業他社にシェアを奪われることになりかね ません。
そうした際にうまく切り抜けること ができるかどうかは、日ごろからTier2、 すること」です。
そして、「革新性」と「現 場作業の優秀性」、「顧客体験」の三つの分野 で「プロテクト」と「アタック」の具体策を 掲げています(図3)。
KPIを一〇〇から五つに絞り込む  「革新性」においては、「リーン・シックス シグマ(リーン生産方式とシックスシグマを組 み合わせた管理方法)」を土台に置いています。
GSC部門だけでなく、全社的にリーン・シ ックスシグマを導入しており、社内には現在 一七人の「ブラックベルト(黒帯資格)」保持 者がいます。
 シックスシグマの最大の利点は、継続的な 業務の改善にあります。
シックスシグマが単 なるチェック作業に終わることがないように、 常に財務部門がその効果を数字で見えるよう にして監査しています。
GSC部門を含め、 今年は全社で四〇〇件以上の改善プロジェク トに取り組んできました。
その結果、前年と 比べて全体の業務工程において平均三〇%の 作業効率の改善が見られました。
 「革新性」における「アタック」の項目とし ては、サプライヤーとの協力関係の強化に力 を入れています。
協力体制には、サプライチ ェーン上の可視性も含まれます。
直接取引が あるサプライヤーにとどまらず、「Tier2 (二次サプライヤー)」、「Tier3(三次サ プライヤー)」までの可視性を確保することが 大切だと考えています。
OCTOBER 2013  74 図3 グローバル・サプライチェーン部門のビジョンと戦略 ビジョン 革新性 現場作業の 優秀性 顧客体験 最高の顧客体験を与えることでPC などの分野で 世界一のサプライチェーンを構築すること ●リーン・シックスシグマの導入 ●生産能力の向上 ●人材育成 ●KPIの徹底 ●高パフォーマンスの社内文化 ●中国国内と国際的ネットワーク ●顧客の要望を集める ●仕事の簡素化 ●柔軟なサプライチェーンの  ソリューション ●持続可能なプログラムの作成 ●サプライヤーとの協力関係 ●リスク管理システム ●コストの透明性と正確性 ●複雑な作業の軽減 ●エンド・ツー・エンドの  作業の最適化 ●完璧な注文の履行 ●注文の可視性 ●配達日の正確性 優先項目守備攻撃 化日数)」、「輸送品質」です。
 この各セクションの業務内容や課題をKP Iを元に設定していきます。
その上で、各従 業員の役割や責任、今後の改善点へと落とし 込んでいくのです。
先に挙げたシックスシグマ の手法も合わせて使っていきます。
このよう なKPIを使って「企業の脈拍」を計り、こ れを全社として共有することで、会社の財務 体質を強化することができるのです。
一箱当たりの配送料を半減  
烹丕匹呂海慮濤猝椶吠儿垢靴動瞥茵∧僂 ていません。
常に同じ項目で業務を見直すこ とが、現場作業の効率化に役立つと考えてい るからです。
 私が入社した〇六年からの五年間で比べて みると、一箱当たりの配送料は五〇%の削減 を実現しました。
オンタイム配送は、同一一 七%の改善を果たしました。
現金循環化日数 は一四%短縮しました。
その結果、輸送品質 全体で業界のトップクラスとなることができ ました。
 ビジョンの三番目となる「顧客体験」は、 顧客の要望に最大限、耳を傾けることから 始めます。
耳が痛くなるような声も多く含ま れています。
しかし、それを真摯に受け止め、 日々の業務に反映させることで、さらなる業 務改善につなげることができるのです。
同時 に、業務のプロセスを可能な限り簡素化して、 柔軟性のあるサプライチェーンを作り上げよう としています。
 例えば、ドイツのメディオンを買収した後 で、欧州の顧客から配送態勢を改善できない かという要望がありました。
ルートの見直し を始めると、すぐに改善の余地のあることが 分かりました(図4)。
 それまでは中国の複数の工場から、複数の ルートを使って、欧州の顧客の元に届けてい ました。
当然、積載効率は低いままで、しか も一回の注文でも複数回に分かれて顧客の元 に配送されていました。
そこで、中国からの 製品を深圳と上海に集約し、オランダの在庫 を持つ倉庫に送った後で、欧州の各地の顧客 に届けることにしました。
「ハブ&スポーク」 の方法を使い、業務を改善したのです。
 私は売上高で三〇〇億ドル近い国際企業の サプライチェーン責任者となってから、どの ようにサプライチェーンを管理しているのかと よく聞かれるようになりました。
そうした時 にはこれまでお話ししたことに加え、人材の 育成の大切さにも触れることにしています。
 当社では、OJTによって修得するスキル を、およそ七〇%と考えています。
残りの うち、二〇%はメンターやコーチなど職場の 上司からの指導を通して修得するもので、一 〇%はいわゆる社内研修や教育で修得するも のです。
従業員の質の向上が、組織のさらな る発展に不可欠であることは、強調しても強 調し過ぎることはないと考えています。
(フリージャーナリスト・横田増生) Tier3まで含めたサプライヤーとどれほ ど密接な協力関係を結ぶことができているの かが鍵となります。
 二番目の項目である「現場作業の優秀性」 の向上には、KPI(重要業績評価指標)を 核に据えて取り組んでいます。
私が入社する 前には、一〇〇項目を超すKPIがありまし た。
確かにその全てをカバーすれば業務改善 を図ることができるかもしれませんが、あま りにも項目が多過ぎてサプライチェーン業務の 全体像が見えにくくなっていました。
 そこでKPIの項目を五つに絞り込みまし た。
「原材料の調達コスト」、「オンタイム配 送」、「エンド・ツー・エンドのコスト」、「キ ャシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環 75  OCTOBER 2013 図4 ロジスティクスルートの簡素化 ヨーロッパ ヨーロッパ 中国 中国

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