ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年10号
特集
第4部 持続成長に向け日本型スキーム構築を 日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻 俊昭 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2013  34 杞憂に終わった“二〇一三年問題”  物流不動産市場がヒートアップし続けている。
特 に首都圏は今年、年間の竣工延べ床面積がリーマ ンショック前のピーク時を超えて過去最高となる。
大規模オフィスビルの竣工ラッシュで首都圏の空室 率が急上昇した“二〇一二年問題”になぞらえて、 “物流不動産の二〇一三年問題”とも言われる。
 今年と同様に物流施設が大量供給された〇八年 には、主要な開発事業者による大型施設の空室率 が二〇%以上に跳ね上がった(図表1)。
そこに世 界金融危機が加わって、信用力の低下から資金繰 りに行き詰まり、経営危機や経営破綻、事業撤退 に追い込まれる開発事業者が相次いだ。
 しかし今回、同じ轍を踏むことはなさそうだ。
大 量供給を消化して余りある旺盛な需要が発生して いる(図表2)。
今後も空室率の上昇は限定的で、 むしろ賃料は上昇していく可能性が高い。
これま でのデフレ経済下とはマクロ環境も違う。
アベノミ クスによって期待される景気回復の後押しを受け れば、市場はさらに活況を呈していくことだろう。
 それでも、潮目は必ずやってくる。
それはいつ 訪れるのか。
どれだけのインパクトを市場にもたら すのか。
それを予測するために、まずはこの一年 を振り返ってみよう。
なお、本稿では首都圏の物 流不動産マーケットを主に解説するが、首都圏は 他の地域に先行して動くため、大阪圏、名古屋圏、 福岡圏等では来年以降に首都圏と同様の動きが顕 在化すると考えられる。
 さて、昨年から今年にかけてJ─
劭釘稗圓料蠎 ぐ上場に加え、大手総合不動産や外資系ファンド等、 多くの開発事業者が物流不動産市場に参入し、過去 に例のない規模での用地取得や開発が進んでいる。
 当社のデータベースによると、これらの事業者が これまで日本国内で手掛けてきた新型施設の開発 面積は延べ床ベースで三〇〇万坪近くに及ぶ。
こ れは国内の一〇〇〇坪以上の物流施設の約一四% に当たる。
このうち新型施設の供給が進んでいる 首都圏の開発面積は約二〇〇万坪で、同約二一% に達している。
 中でも新規開発物件と旧来型の倉庫が混在する 千葉県の柏市周辺地区での割合は三割を超えてい る。
それでも同地区における新規物件の供給には 飽和感はない。
従って全国の一四%、首都圏の二 一%という占有率には、まだまだ伸びしろがある 持続成長に向け日本型スキーム構築を  大量供給によって空室率が跳ね上がる物流不動産市 場の“2013 年問題”は杞憂に終わる。
来年もハイペー スの供給が続くが、市場は活況を謳歌する。
しかし、 これまで市場の成長を牽引してきた3PL 業界には異変 が生じている。
賃料水準の上昇と用地の高騰が3PL を さらに追い詰める。
日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻 俊昭 代表 図表1 首都圏における主要な開発物流施設の需給バランス変化の経緯 500,000 0 50 0 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 09 年 10 年 11 年 12 年 13 年 14 年 15 年以降 供給率(坪) 需要量(坪) 空室率(%) 出所)当社データベースより作成 02 年 第4 部 35  OCTOBER 2013 ものと考えられる。
 首都圏では一二年上期から一三年上期の間に、 市中倉庫と大規模開発物件を含めた賃貸スペース が約二一万坪増加している。
それにも関わらず空 室率は二・九%から二・四%に減少した。
大規模 開発物件だけではなく、旧来型施設を含めた市中 倉庫全体の空室率が低下している。
単純計算では、 当該の一年間で賃貸スペース需要が約二二・七万 坪、純増したことになる。
物流不動産ビジネスの 根底となる物流スペース需要自体が堅調に発生し ているのである。
 しかし、今年一三年は市川、三郷、相模原地区 で大規模なマルチテナント型施設が稼働すること等 により、供給量がおよそ四〇万坪にも達する。
こ れまでの首都圏の年間平均需要の約二〇万坪強を 大幅に上回る規模である。
供給過多によって空室 率の上昇が懸念されるのも当然であろう。
 しかし、蓋を開けてみれば懸念は杞憂に終わっ た。
当社の調べでは八月末時点で一三年の新規供 給スペースのうち六割強で既にテナントが決まって いる(推測含む)。
大型スペースの利用を前提とす る荷主のコンペ案件、移転案件の足下の動きを見 ると、テナント決定率は今年末にかけてさらに高 まっていくものと考えられる。
 一般にマルチテナント型施設は、竣工一年後の満 床を目途にしている。
現況は順調にテナント付けが 進んでいると言える。
ちなみに一四年の竣工予定 物件についても既に三割弱のテナントが決定してい るもようである。
 リーマンショック前に首都圏で大規模な供給があ った際には空室率の急激な上昇が見られた。
それ に対して今回、空室率は低く、安定的に推移して いる。
エリアによっては供給不足の感さえある状 況となっている。
 水面下のテナントリーシングは好調であり、今予 定されている大量供給で一時的に空室率が上昇し ても、そのレベルはマーケットに混乱を生じさせる ことのない、一〇%以下の範囲内に収まるものと 考えられる。
それを反映して賃料水準は強含みと なっているエリアが多い。
新たな成長のドライバー  これまで日本の物流不動産市場は大きく三つの 需要によって支えられてきた。
一つは、大規模物 流施設の賃借を必要とする3PL業界の成長。
二 つ目は、荷主企業による効率の良い施設・立地へ の移転ニーズ。
三つ目は、老朽化した物件からの 移転である。
これに加えて現在、新たに三つのタ イプの需要が台頭し、市場の成長を牽引するドラ イバーとなっている。
 その一つが通販物流市場の急拡大である。
一二 年にはアマゾン、楽天をはじめとする大手ネット通 販事業者による物流スペース需要が予想を遙かに上 回る規模で発生した。
一二年の通販物流市場は概算 で一兆円近くに達したものと考えられている。
今後 も年率八〜一〇%程度で成長することが見込まれて いる。
その物流スペース需要として当面、年間一〇 万〜一五万坪が発生すると当社では予想している。
 二つ目がBCP(事業継続計画)に対応した移 転需要である。
東日本大震災以降、津波や地震に 図表2 首都圏における賃貸物流不動産における空室、消化面積の変化 東京 湾岸 神奈川 湾岸 千葉 湾岸 常磐線 沿線 東北道 沿線 関越 沿線 神奈川 内陸 多摩 地区他合計 2012 年 上旬 2013 年 上旬 2012 年 上旬 2013 年 上旬 2012 年 上旬 2013 年 上旬 差分 賃貸物流 面積 (万坪) 消化面積 (万坪) 空室率 (%) 90.1 92.4 3.2 0.7 87.6 91.8 4.2 70.2 74.4 4.2 79.1 78.7 -0.4 48.8 58.4 9.6 40.5 42.1 1.6 40.8 41.6 0.8 53.0 55.7 2.8 22.7 22.5 -0.2 13.1 13.1 0.0 443 465 22.7 73.8 76.3 6.6 3.3 79.9 79.9 1.3 1.9 49.9 60.1 4.1 4.7 40.6 42.2 0.7 0.5 41.3 41.8 3.0 0.7 53.3 57.3 1.3 4.7 22.8 22.8 2.0 5.3 13.1 13.1 0 0 465 486 2.9 2.4 出所)当社の調査データより集計 注)概ね千坪以上の賃貸倉庫を対象としている。
賃貸倉庫には自前倉庫でも賃貸している倉庫も含む。
図表3 大規模開発物件における免震化率の変化 700,000 0 35 30 25 20 15 10 5 0 06 年 05 年 07 年 08 年 09 年 10 年 11 年 12 年 13 年 14.9 12.7 15.1 14.7 12.6 12.3 免震施設面積累計(坪) 免震化率(%)〈延べ床ベース〉 11.5 12.4 21.5 出所)当社データベースより作成 よるリスクを回避するため、在庫拠点を従来の湾 岸地区から内陸かつ免震機能を備えた施設に移転 する動きが具体化しつつある。
 当社のデータベースによると、大規模開発物件 における免震化率は面積ベースでこれまで十一〜 一五%で推移していた。
それが一三年には一気に 二一・五%に跳ね上がる(図表3)。
開発事業者 による免震機能強化と内陸部への事業展開が、メ ーカーのリスク回避の動きと合致して新たな需要を 生み出している。
 そして三つ目が流通業の業態変化である。
その 一例が食品卸による大規模拠点の整備である。
大 手食品卸はいずれも、従来の商流、情報流に加え、 物流(3PL化)まで取り込む機能の総合化を図 っており、GMSやスーパー向けの一括物流機能 の整備を進めている。
その拠点としてはドライ、チ ルド、冷凍等の多温度帯管理が可能で大規模なス ペースが求められており、一万〜二万坪以上の施 設も珍しくない。
 コンビニエンスストア向けの需要も出てきた。
コ ンビニのセンターは同一車両で一日複数回の配送を 行うため食品卸のような大規模施設ではなく数千 坪以下の中規模施設が中心だった。
しかし、PB 商品の増加によって在庫スペースが必要になってき たこと、拠点を集約する傾向にあることなどから、 より大規模な施設を確保する動きが出てきている。
足元での潮目の変化  図表4は一三年以降に首都圏で竣工する自社開 発も含めた大型物流施設の立地状況を示したもの である。
首都圏を含め全国では一三年末までに六 〇万坪超、一四年にもほぼ同じ規模の六〇万坪弱 が竣工する予定だ。
来年いっぱい開 発ラッシュが続くことになる。
 大阪圏も同じだ。
現在、大阪圏で は大規模スペースの需給が逼迫して いる。
これに対して一四年から大規 模なマルチテナント型施設が供給さ れる。
名古屋圏、福岡圏でも物流ス ペースは不足しており、一四年以降 には開発が活発化してくると予想さ れる。
 物流不動産に対する投資家の要求 利回りが下がってきていることも大 きい。
過去一〇年にわたるトラック レコードが出来上がったことで、投 資家の信認が格段に上がった。
低い 期待利回りが許容されれば、少々割 高の用地取得も可能となってくる。
 こうして物流不動産市場は二〇一 三年問題を乗り越え、新たな需要の 拡大によって好況を謳歌している。
産業としてのライフサイクル上、現 在の市場は「成長後期」の入り口か ら一歩踏み込んだ状況にある。
成長 後期の後半における淘汰が始まるま でにはまだ、十分な時間があると考 える。
 これまで日本の物流不動産市場は、デフレが続 き、国内貨物輸送量も伸びない中で成長してきた。
しかし、今後は年率二%の経済成長が目指されて いる環境下でビジネスが展開されることになる。
そ の結果として、資産としての性格が変化する可能 性もある。
これまではオフィスや住宅と比較して賃 料収入が安定していることが物流不動産の特徴だ った。
しかし、希少性のある物流施設においては 当面、賃料水準の上昇があり得る。
 それでも、市場全体を俯瞰すれば環境変化の兆 しも見られる。
特に筆者が注目している点を以下 に解説する。
OCTOBER 2013  36 図表4 2013年以降の竣工済み予定物件 自社用開発、BTS型開発 マルチテナント型開発 オリックス川越 ロジスティクスセンター MELP八潮GLP 三郷 DPL 三郷 SGリアルティ柏B棟 オリックス岩槻ロジスティクスセンター プロロジスパーク川島2 プロロジスパーク北本 MFLP 久喜 MFLP日野 ロジポート橋本 ロジポート相模原 GLP厚木 DPL相模原 MFLP 厚木 ランドポート厚木金田 GLP 綾瀬DPL 横浜大黒 グッドマン水江 レッドウッド生麦 グッドマン市川 MLF八千代物流センター MFLP船橋西浦 GLP・MFLP 市川塩浜 KCREロジスクエア八潮 KCREロジスクエア草加 佐倉市 市川市 成田市 霞ヶ浦 千葉市 土浦市 新宿区 所沢市 神奈川県 東名道 関越道  一つは3PLの収益性問題である。
今のところ新 規案件の立ち上げペースに衰えは見られないが、既 存荷主の物量減少やコスト削減要請の激化で、3P L事業者の収益性が低迷している。
とりわけ足下で は低廉な輸送手段確保が極めて難しくなっており、 輸送収支で逆ざやが発生するケースも出ている。
 このため、3PL事業者は低廉な賃料を求めて より郊外部の拠点を選ぶか、あるいは自前で拠点 整備に動くようになっている。
郊外化は圏央道や 東北自動車沿線エリアを越えて広がり、埼玉県を 越える事例も散見されるようになってきた。
自前 化は資本力のある大手3PLが中心で、スペース当 たりの社内卸値を賃借相場よりも安く設定し、コ ンペ等で優位に立とうとする狙いである。
 内陸部で立地ポテンシャルの高い開発拠点の入居 状況を見ると、3PLではなく荷主企業自身が主 導して入居するケースも目立ってきた。
また、荷 主企業は市中倉庫からの移転がほとんどを占めて いるため、この傾向が進むと市中倉庫に空きスペ ースが増えてしまう。
「市中倉庫も開発倉庫も需要 で一杯」という最近の構図が崩れてくる可能性も ある。
 在庫の“再リーン化”も始まった。
東日本大震 災でサプライチェーンが寸断した反省から、多くの 荷主企業が一時期、在庫の積み上げに動いた。
空 室率の動きからも、そのことは確認できた。
景気 上昇が見られない中で開発物件を含む市中倉庫の 空室率が減少したのは、在庫の積み増しが一つの 要因だったと考えられる。
 しかし、それも今では落ち着きを取り戻し、一 二年4Q頃には震災前の水準に戻っている。
今年 上期は円安対策で日用品、家具等の緊急輸入が発 生して在庫が積み上がったため、在庫の再リーン 化による物流スペースへの影響はまだ出てきていな い。
しかし今後は徐々に市中倉庫を中心に空きス ペースが顕在化してくる可能性がある。
 通販物流需要にも不安がある。
「送料無料」が広 まり、また宅配コストが上昇していることで、通販 会社の収益性が圧迫されているのは明らかだ。
そ れでも当日配送を行うなら拠点立地は消費地に限 られるが、当日配送を必要としない通販では、人 手を集めやすく、かつ低廉な消費地周辺部への賃 貸施設への入居意向が強まるものと考えられる。
 もともと通販業は在庫ビジネスであるのに、今日 開発されている物流施設は配送機能重視型であり、 オーバースペックの感もある。
面積が十分確保でき れば従来型の倉庫でも適応は可能であろう。
大規 模スペースが必要な通販会社自体、数が限られて いることから、必ずしも通販会社が次から次へと 開発物件を借り続けることにはならないだろう。
 物流施設の開発コストは上昇している。
これま で坪当たりの建設費は二〇万円後半が相場だった。
それが最近では三〇万円超が増えている。
用地も 高騰している。
特に首都圏は不足感が強い。
一三 年に大量に供給される久喜地区、三郷地区、相模 原地区等も、テナントの立地ニーズが第一と言う より、大規模な用地の供給があったことが大きい。
適地が市場に出れば奪い合いになるため当然、取 得額は跳ね上がる。
 今後、景気上昇やオリンピック効果などで、適 正価格の用地取得は一段と難しくなる可能性があ る。
建設コストも上昇する。
それが賃料に跳ね返 ってくる。
しかし、コスト負担力のある荷物は限 られており、賃料の上昇によってリーシングが難し くなる可能性がある。
3PLの悲鳴が聞こえる  物流不動産ビジネスは「物流」×「不動産」× 「金融」の掛け算で成立している。
その成長によっ て「物流」は今日的スペックの施設が利用可能に なり、効率性、耐コスト性という恩恵を得た。
3 PL/物流会社は事業を拡大することができた。
同時に「不動産」は新しいマーケットへのアクセス を、「金融」は新しい投資対象資産を手に入れた。
 市場は当面、「不動産」×「金融」主導で展開さ れて成長が続くだろう。
その一方で「物流」が悲 鳴を上げ始めている。
とりわけ3PLは現在、大 きな困難に直面している。
今後も3PLは物流不 動産市場の主役であり続ける。
その復活なしには 物流不動産ビジネスの永続的な成長はない。
 「不動産」と「金融」が好況を享受している今こ そ次のスキームに挑むべきである。
例えば「倉庫は 長く使えば使うほど、安くなる」という物流業界の 伝統的な考え方と長く共存できる日本型のビジネス モデルは成立しないだろうか。
開発事業者、アセッ トマネジメント事業者の方々にぜひ踏み込んでもら いたいと思うところである。
37  OCTOBER 2013 辻 俊昭(つじ・としあき) 野村総合研究所にて行政機関や民 間企業の物流コンサルティング、調 査業務に従事。
ジェイ・レップロ ジスティックス総合研究所代表を経 て、2009年9月より物流施設に関 する調査・分析、開発マーケティン グコンサルティング等を行う日本ロ ジスティクスフィールド総合研究所 を設立。
現在に至る。
PROFILE

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