ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年9号
物流指標を読む
第57回 日本の対中投資がなぜ伸びる!? 「2012年の対中直接投資動向」日本貿易振興機構「利用外資統計」中華人民共和国商務部「国際収支統計」財務省

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 SEPTEMBER 2013  98 日本の対中投資がなぜ伸びる!? 第57 ●12年における日本の中国投資が大幅増 ●今年に入ってからも引き続き増勢続く ●財務省統計データでは真逆の結果も‥‥ さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
中国を ?素通り? する  今年三月に出版された『パッシング・チャイナ』 (講談社)という本が話題だ。
著者は、「ワールド ビジネスサテライト」などの経済番組でもおなじみ の、大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストであ る。
 熊谷氏は本書の題名についてこう書いている。
「『バッシング』(bashing)ではなくて『パッシング』 (passing)──すなわち、中国を非難するのでは なく、もう中国を素通りしてもいいのではないか、 という主張だ。
日本は中国への依存度を下げてい く必要があるだろう」(注:単語の英訳は筆者によ る)  かなり強烈なタイトルだが、昨年九月以降、我 が国では対中感情が急速に悪化していることもあ って、本書はかなり売れているそうである。
本欄 でも何度か、中国政府が発表する各種経済統計が 捏造されている可能性が高いことを指摘し、中国 経済の危うさについて主張してきた。
言いたかっ たのは、「さまざまな問題を抱えている中国に大 きく依存することは危険であり、我が国は中国と の付き合いを徐々に減らしていくべき」というこ とであった。
しかし、熊谷氏はさらに一歩進んで、 中国を「パッシング」するという選択肢まで挙げ ておられる。
 本書では、日中間で尖閣諸島をめぐる問題が深 刻化した背景、日中関係の悪化が両国経済に与え る影響などについて考察する一方で、中国経済の バブル崩壊に警鐘を鳴らしている。
また、日本企 業にとって「チャイナ・プラス・ワン」、つまりは、 中国以外にもう一つ海外拠点を作ることの重要性 を強調している。
 さらに、日中両国の国民性の比較などを通じて 日本人の強みと弱みを明らかにするとともに、今 後の日本企業の経営戦略や、日本政府、日本国民 が取るべき対応などについて検討している。
三〇 〇ページを超える大作であるが、平易に書かれて おり読みやすい本である。
ご一読をお勧めする。
 さて、中国においては、一時期よりも反日暴動 などは減少したものとみられるが、人件費をはじ めとする諸経費が高騰していることもあって、生 産拠点としての中国の魅力は以前よりもかなり低 下している。
しかし、その一方で、十三億〜一四 億人の人口を擁する巨大な消費市場という魅力も あって、日本企業による中国への直接投資は必ず しも減少していないようだ。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)が六月に発表し た「2012年の対中直接投資動向」によると、 一二年における世界の対中直接投資実行額は前年 比三・七%減と、三年ぶりの減少に転じた(注: 減少の要因は、世界的な景気減速、中国の景気減 速、労働市場の問題を背景とする投資のASEA Nなどへのシフト、など)。
一方、日本の対中直接 投資は同一六・三%増と、二けたの増加になった。
 正直なところ、筆者は、一二年における日本の 対中直接投資はマイナスとはならないまでも、低 い伸びにとどまるものと予想していたのだが、上 記のような意外な結果となった。
ちなみに、こう した結果について、ジェトロでは「日本の対中投 資について、九月の反日デモ以降は減速するとの 見方もあったが、投資環境の変化が投資の金額や 「2012年の対中直接投資動向」日本貿易振興機構 「利用外資統計」中華人民共和国商務部 「国際収支統計」財務省 99  SEPTEMBER 2013 二・〇%に急増しており、ジェトロは「企業マイ ンドの変化が見て取れる」としている。
 さて、今年に入ってからの動向であるが、中国 商務省「利用外資統計」によると、一三年一〜三月 が前年比一〇・五%増、四〜六月が同一八・四% 増と増勢は鈍化していない。
なお、四月は同五・ 一%増、五月は同十二・二%減となり、ブレーキ がかかったように見えたが、六月は四六・〇%増 と急回復している。
 この件について、中国商務部の沈丹陽報道官は 「多くの多国籍企業は依然として中国の投資環境と 経済発展の将来性を評価しており、日本もその例 外ではない」と説明し、「中国の外資導入政策は変 わっておらず、今後も中国への投資を歓迎する」と 述べたという(注:ジェトロ「通商弘報」による)。
中国統計の信憑性?  上記の数値に違和感を禁じ得なかった筆者は、 財務省「国際収支統計」を見て再度驚いた。
同統 計によると、日本の対中直接投資は、一二年一〇 月以降、月によってバラツキはあるものの、おお むね二けたの減少傾向で推移しており、しかも一 三年六月は前年比四二・三%減と、中国側の統計 とは真逆の結果となっている。
両者における数値 の動きに、なぜこれほどまで大きな齟齬が生じて いるのか。
恥ずかしながら、筆者は当該統計につ いての知識を持ち合わせていなかったので、ジェ トロに確認してみた。
 ジェトロ「通商弘報」によると、齟齬が生じる 理由として、第一に、日本側の統計は円建てであ るのに対し、中国側の統計がドル建てであること が挙げられる。
第二に、投資の定義が異なってい ることが挙げられる。
すなわち、日本側の統計は 国際収支ベースで、?株式資本(直接投資企業の 株式、支店の出資持ち分およびその他資本拠出金) ?再投資収益(直接投資企業の未配分収益のうち、 直接投資家の出資比率に応じた取り分と直接投資 家に未送金の支店収益)、?その他資本(上記二 項目に含まれない直接投資家と直接投資企業また は支店との資本取引)─から構成されているのに 対し、中国側の統計は新規投資に増資を加えたも のであり、日本側の統計にある?と?が含まれて いないことが挙げられる。
そして第三に、日本側 の統計には金融(銀行・証券・保険)が含まれる が、中国側の統計には含まれていないことが挙げ られる。
 ただし、以上のように母集団が異なるのである から、結果が異なるのは当然と簡単には割り切れ ない。
例えば、日本は昨年末より円安に転換した のであるから、円建ての金額は円安になった分だ け膨らむはずである。
それにも関わらず、中国側 の統計では二けたの増加、日本側の統計では二け たの減少となっている。
また、日本側の統計にの み含まれる金融・保険業の対中直接投資は、ここ 数年大幅減が続いており、これは辻褄が合ってい る。
しかしそのシェアは、一二年において全体の わずか五%弱にすぎない。
従って金融・保険業の 対中直接投資が大きく減少したとしても、その影 響は小さい。
 中国側の統計において日本の対中直接投資が引 き続き大きく伸びている理由、それは中国の統計 だからではないのか‥‥。
件数に影響を与えるまでには、数カ月のタイムラ グが想定され、企業の投資マインドの変化の影響 はこれから現れることも十分考えられる」と分析 している。
 また、ジェトロの「在アジア・オセアニア日系企 業活動実態調査」(注:一二年度調査は、一二年 一〇月九日〜十一月一五日に実施)によると、今 後一〜二年の中国事業の方向性について、ここ数 年は「拡大」と回答する企業の比率が増加を続け、 一一年度は六六・八%にまで高まったが、一二年 度調査では五二・三%に低下した。
他方、「現状 維持」との回答が一一年度の二八・九%から四 中国への直接投資の伸び率(前年比)推移 100 80 60 40 20 0 -20 -40 -60 (%) 12 年4月 13 年1月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 2月 3月 4月 5月 6月 5月 日中統計に大きな齟齬が生じている 利用外資統計(中国商務部) 国際収支統計(財務省)

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