ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年8号
特集
第5部 「外国人部隊」組織し日本流を修正──カルソニックカンセイ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2013  30 は、同じくグローバル生産本部の下にある「生産・ SCM戦略企画グループ」が進めており、センタ ーの業務と線引きを明確にしている。
 センターを立ち上げた背景には、新興国向けに 特化した自動車を現地スタッフ主導で開発したり、 複数の国で新型車の生産を同時にスタートしたり と、自動車業界の海外展開が加速していることが 挙げられる。
 日本が中心となって戦略を考え、各地域と調整 して最終決定するという従来のやり方では方針を 決めるまでに時間が掛かっていた。
環境変化に素 早く対応するため、意思決定のスピードを上げる 必要が生じていた。
荷姿の見直しなどを進める上 では、日本と米国では輸送のトラックの大きさが 相当異なるといった現地の事情をより正確に把握 日本も世界の一地域とみなす  カルソニックカンセイは日産自動車系としては 国内最大規模の総合部品メーカーだ。
スピードメ ーターやエアコン、各種スイッチなどを一体化し て運転席に取り付ける「コックピットモジュール」 (CPM)といった製品を手掛けている。
 売上高の八割を日産向けが占めているが、トヨ タ自動車を除く国内外の主要自動車メーカーとも 取引がある。
自動車業界の海外生産・販売拡大 に足並みを揃えるかたちで、北米や欧州、アジア などに進出。
現在は日本を含む一六カ国、六二カ 所に拠点を構えている。
 二〇一一年にグローバルSCMの統括体制を見 直した。
グローバル生産本部の下に、主要な海外 現地法人のメンバーを集めた組織「グローバルS CMセンター」(以下、センター)を新設した。
日 本のほか、米国や英国、中国、タイ、メキシコな ど、現地採用の従業員の中から選抜されたメンバ ーが各地域の代表として日本に常駐している。
 センターは物流を担当するグループと、生産管 理などを手掛けるグループに分かれている。
それ ぞれのグループが海外の部品調達先、生産拠点の 稼働状況といったSCMに絡む各地域の情報を細 かく吸い上げ、センター内のメンバーで共有。
そ の上で、調達を含む物流戦略立案や生産の需給管 理、在庫削減な どを進めている。
 一方、数年後 を見据えた中長 期的なSCM最 適化の戦略立案 「外国人部隊」組織し日本流を修正 ──カルソニックカンセイ  2011 年に海外の現地法人から外国人メンバーを集め た「グローバルSCM センター」を本社に新設した。
日 本中心だった従来のアプローチを修正。
世界各地の実 情をより正確に把握して、業務プロセスの標準化や調 達物流の効率化をスピーディに進められる体制の確立を 目指している。
             (藤原秀行) エリック・ハック常務 執行役員(兼グローバ ルSCMセンター長) 物流改革の「5つの挑戦」のイメージ 出所:同社資料を基に作成 GX4 T10 Distance Package Cubic meter Filling rate Logistics Quality 「TdC」最小化 第5 部 31  AUGUST 2013 えていない部分があった。
センターが機能してい る今は、日本は特別な存在と言うよりも主要な地 域の一つであって、それぞれの地域と等距離にあ ると位置付けている」と解説する。
物流改革へ「五つの挑戦」  センターと各現法などが連携して、物流分野 で「五つの挑戦」と呼ぶ改革を進めている。
? Distance(輸送距離短縮)?Package(個装改善) ?Cubic Meter(梱包改善)?Filling Rate(コ ンテナ等の充填率改善)?Logistics Quality(物 流品質向上)を重点項目に設定した(図)。
過剰 梱包を見直して一つのパッケージに収められる製 品の数を増やしたり、梱包を改善してトラックの 荷台上部に生じていた無駄な空間を解消したりと、 地道な活動を続けている。
 調達面では、部品の価格だけを見るのではなく、 物流も含めたトータルのコスト「TdC」( Total Delivery Cost)という観点からサプライヤーを比 較、選定するとともに、製造拠点までの輸送ルー ト短縮などを図っている。
 物流以外の部門との協力も重視している。
以前 は新たに開発した製品を量産する段階になって、 ようやく輸送効率を上げる包装はどのようなもの がいいか等、物流の方向性を固めていた。
しかし 生産が本格化してからでは包装デザイン等のすみ やかな変更は難しい。
物流と製造や設計などの部 門が連携し、製品設計の段階から適正な包装を検 討することなどを進めている。
 ハック常務はセンターの業務に関し、「各メンバ ーは短期滞在ではなく、一─二年といったスパン で日本にいる。
ほぼ毎日顔を合わせているので、 しておく必要もあった。
 そのため、日本中心で進めていた従来のアプロ ーチを一部改めた。
日本を世界の一地域ととらえ 直し、各地の実情に詳しいメンバーから成る「外 国人部隊」の編成に踏み切った。
 同社は一一〜一六年度を対象とする中期経営計 画「CK GX4 T10」で、「世界をリードする 環境対応新製品を一〇種類創出」「売上高と営業 利益でそれぞれグローバルトップ一〇」という三 つの「T10」(トップテン)を目標に掲げている。
センターの設置も、そうした中計のグローバル重 視の路線に歩調を合わせた格好だ。
 一一年にメキシコ現法社長から日本の本社に転 じ、現在はセンター長を務めるエリック・ハック 常務執行役員グローバル生産本部副本部長は「体 制を見直すまでは、日本では外国人が参加した意 思決定プロセスが十分構築されていなかった。
海 外の現法もほかの地域が何をしているかがよく見 生産や販売などの実態をすぐにつかむことができ る。
国をまたいで連絡を取り合うよりも非常に意 思決定のスピードが早くなった」と自信を見せる。
 センターと各地域との関係性については「我々 は父親のようにほかの地域を支配したり、権威を 持って何かをしたりするのではなく、サポーター の立場だ。
業務の標準化などはセンターで主導的 に進めるが、各地域にも裁量を認め、自ら改善策 を考案するのをサポートしている」と強調する。
 グローバル規模で業務プロセスを可視化するた め、カルソニックカンセイが独自に開発した情報 システム「レーダースクリーン」を全社的に活用 している。
同社の従業員はパソコンからイントラ ネットにアクセスし、国内外の拠点における製品 ごとの生産能力や需要の状況、在庫や各地への輸 送に掛かる日数などを画面上で確認できる。
 同システムを通じて生産や調達、物流などSC Mの現状と問題の所在を見える化し、製品の発注 が生産能力の限界に近付いていないか等をグロー バルSCMセンターのメンバーら関係部署が常に チェックしている。
問題が発生すれば、すぐに別 の工場に振り分けるといった対応を打つ。
 ハック常務は一三年度以降の課題として、新設 したロシアやブラジルの生産拠点のオペレーション を早期に軌道に乗せるとともに、ほかの地域と同様、 部品の現地調達を促進することを挙げている。
 「センターができてからの二年間で地域間のコミ ュニケーションがより図られるようになった。
単 に海外に多くの拠点を持つ国際的な企業から、各 地域間が連携して全体最適の解を探し出す真のグ ローバル企業に変革していくことが今後の狙いだ」 と力を込める。
ハック氏が率いる「グローバルSCMチーム」のメンバーら。
各地域の情報を共有し、SCM最適化に向けた施策の立案 などを手掛けている 特集 調達物流

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