ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年7号
物流行政を斬る
第28回 多くの?ゾンビ企業?を生んだ金融円滑化法が三月に失効事業者の規模適正化の契機に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2013  78 トラック事業者の九九・七%は中小零細  二〇〇九年十二月、当時の民主党政権が「中小 企業金融円滑化法(以下、円滑化法)」を制定した。
折からの景気低迷に加え、リーマンショックの影響 もあり、経営不振に陥る中小企業が続出。
それを救 済するため、資金の借り手である中小企業が金融機 関に返済負担の軽減を申し入れた際、金融機関は可 能な限り貸付条件の変更等に応じるよう、その努力 義務を課したものだ。
 約二年間の時限立法であったが、その後、期限を 迎えても依然として中小企業の業況・資金繰りが厳 しいことから、一三年三月末まで延長されていた。
そして昨年の衆議院議員選挙で自民党が圧勝し、ア ベノミクスが功を奏したこともあり、同法は本年三 月末に予定通り失効した。
 円滑化法はあらゆる産業の中小企業を対象にした 法律であったが、とりわけ物流業界はトラック事業 者をはじめとして、中小企業の占める比率が非常に 高い。
そこで今月はこの円滑化法が果たした役割や、 同法の失効を通して見えてくる物流業界の構造的な 問題点について考察する。
多くの?ゾンビ企業?を生んだ 金融円滑化法が三月に失効 事業者の規模適正化の契機に  中小企業の借金返済を猶予する「中小企業金融円滑化 法」が今年三月に失効した。
二〇〇九年十二月に施行さ れて以来、多くの物流企業がこの制度を活用したとみら れる。
しかし、本来淘汰されるべき企業が不当に生き残 り、運賃の過当競争に拍車を掛けたにすぎない。
今回の 失効を機に、物流事業者の適正規模を議論すべきだ。
第28回  円滑化法の内容は、次の三点にまとめられる。
?金融機関の努力義務として、中小企業者又は住宅 ローンの借り手から申し込みがあった場合は、出 来る限り、貸付条件の変更等の適切な措置をとる よう努める ?金融機関は、そのために必要な体制を整備し、実 施状況及び本法律に基づき整備した体制等を開示 する ?金融機関が報告した貸付条件の変更等の実施状況 に関しては、行政庁がこれを取りまとめて公表す る  要は中小企業の借金返済の先延ばしを期限付きで 認めるというものである。
これにより、それまで借 金返済の猶予に冷たかった金融機関は、明確な収益 改善計画がない状態でも相談に乗り、猶予に応じる ようになった。
 当然、多くの中小企業が飛び付いた。
一三年一月 二一日に東京商工リサーチが発表した調査結果によ ると、国内四〇七金融機関(大手八行、地方銀行 六四行、第二地銀四一行、信託銀行六行、政府系 金融八行、ネット銀行九行、信用金庫二七一金庫) に対し、〇九年十二月の法律施行から一二年九月末 までの間に、三九〇万五一六五件の借金返済猶予の 申し込みがあり、その金額は一〇六兆一二六九億二 六〇〇万円(住宅ローンを除く)に上った。
 このうち、実行件数は三六三万二五五八万件、 実行金額は九九兆五五九一億七五〇〇万円であっ た。
ただし、これには取引先の金融機関が複数であ ったり、半年ごとの定期変更などもカウントされて いる。
これを考慮して、借り手一社が三行に平均二 回の借り入れ二本の条件変更を申し込んだと仮定し て試算すると、実際の申し込み社数は三二万五四三 〇社であったと推定される。
それでも、全国の法人 数(普通法人と個人事業者の合計)の八%強にも当 たる数値である。
非常に多くの中小企業が同法を利 用し、借金返済を猶予してもらったかが分かる。
 円滑化法の対象は中小企業であるが、中小企業庁 のホームページを見ると、その定義は業種ごとに異 なる。
物流企業が含まれる「製造業・運輸業・そ の他」の場合、「資本金三億円以下又は従業員数三 〇〇人以下」である。
ちなみに、サービス業は「資 本金五〇〇〇万円以下又は従業員数一〇〇人以下」 となっている。
 トラック事業者を従業員数別に見ると、図1のよ 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 79  JULY 2013  うになる。
定義に従って三〇〇人以下を中小企業と すると、九九・七%がそれに該当する。
日本通運や ヤマト運輸といった大手企業は、わずか二〇〇社強 しかおらず、全体の〇・三%にすぎない。
 トラック事業者の経営状況についても確認してお こう。
図2は、トラック事業(一般貨物運送事業) に関する黒字企業の割合である。
これを見ると、一 〇年度における黒字企業の割合は全体で四二%(営 業利益ベース)と半数に達していない。
 さらに規模別で見ると、「一〇台以下」では営業 赤字企業の割合が六三%、「十一〜二〇台」では同 五九%、「二一〜五〇台」では同五五%となってお り、トラック保有台数が少なくなればなるほど、黒 字企業の割合が低くなる傾向が確認できる。
 以上のことから、トラック事業者における中小零 細性および経営状況の厳しさが確認できる。
先の円 滑化法に関しても、トラック事業者の多くがこれを 利用し、借金返済の猶予を申請したと見てよい。
失効の余波はこれから  政府は四月一八日、中小企業金融のモニタリング に関する副大臣会議(議長:世耕弘成内閣官房副長 官)を開き、円滑化法の失効後における金融機関の 対応等について、大きな変化や混乱は見られないと する調査結果を公表した。
併せて東京商工リサーチ や帝国データバンクの調査結果を示し、例年三月に 倒産件数が増える傾向にあるが、一三年は横ばいだ ったとし「アベノミクスの効果で景況感がいい状況 が続いているのではないか」と述べた。
 また国土交通省と全日本トラック協会は一三年二 月二五日、「中小企業金融円滑化法の期限到来に関 するセミナー」を開催した。
そこで中小企業支援策 や相談窓口を紹介している。
 国は円滑化法失効の影響はないという見解を示し ているが、失効後まだ間もないため判断を下すのは 時期尚早だ。
筆者はむしろ、失効の余波は今後少 しずつ出てくると見ている。
足元の円安基調の定着 により燃料コスト等が大幅上昇していることに加え、 長期金利も緩やかながら上昇傾向にある。
変動金利 で借金をしている場合などは、こうした環境変化に も対応しなければならない。
今後、同法の影響を物 流業界としても注視していく必要があるだろう。
場 合によっては、激変の影響を避ける何らかの緩和措 置が必要となってくるかもしれない。
 そもそも、民主党の行った中小企業金融円滑化法 なるものに問題があったと筆者は考えている。
本来 淘汰されていくべき物流企業が生き残り、「ゾンビ 企業」などとやゆする言葉も登場した。
以前本欄で も述べたが、物流業界においては、もう少し規模の 大きい事業者が中心となるよう規制を見直すべきで はないだろうか。
 現状はトラック事業への新規参入のハードルが著 しく低いため、既存のトラック事業者は常に価格下 落競争の波にさらされ、その多くが業績悪化にあえ ぐ状況になっている。
物流はあらゆる産業のインフ ラとも言うべき大事な産業であるが、そこに属する 企業が本業からきちんと利益を上げられる構造にし ておかなければ、新規参入と退出を多くの企業が繰 り返すのみで、業界を挙げたイノベーションや技術 促進を図ることはできない。
 円滑化法の施行および失効の一連の動きに際して、 物流業界の中小零細性や経営環境の悪さに目を向け る契機にしたいところである。
同法に問題があった ことは言うまでもないが、国はこうした法律の申請 に多くの物流事業者が殺到した事実を重く受け止め、 より望ましい物流行政に役立ててほしい。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を 経て現職。
流通経済研究所客員研究員、 日本ロジスティクスシステム協会調査 研究委員会委員、日本ボランタリー チェーン協会講師等を務める。
著書に 『事例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
図1 トラック事業者数(従業員数別) 図2 黒字企業割合の推移 31〜 50 51〜 100 101〜 200 201〜 300 301〜 1,000 1,001 以上11〜 合計 20 21〜 30 10 人 以下 21 27,240 4,126 492 31,879 50.5 11 14,221 271 80 14,583 23.1 12 6,491 83 10 6,596 10.5 24 4,827 57 8 4,916 7.8 54 3,336 32 7 3,429 5.4 47 1,153 16 0 1,216 1.9 34 214 6 1 255 0.4 57 97 3 0 157 0.2 30 22 0 0 52 0.1 290 57,601 4,594 598 63,083 100 人 業種 特積 一般 霊柩 特定 計 構成比(%) (単位:者) (貨物運送事業:%) 2008 年度 営業利益 経常利益 2009 年度 2010 年度 2012 年3月31日現在 出所:全日本トラック協会 出所:国土交通省自動車局貨物課 0 10 20 30 40 50 60 70 38% 45% 48% 61% 42% 56%

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