ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年4号
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第83回 三井倉庫 株価は堅調ながら相次ぐ下方修正3PLと海外事業が業績浮上の鍵

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2013  68 アジア地域へ集中投資  二〇一二年三月末から一三年二月末まで、同 社の株価は二二%上昇した。
三菱倉庫の五四% 上昇や住友倉庫の二四%上昇に比較すれば上昇 率は小さいが、日経平均株価の一四%上昇と比 較すれば堅調である。
安倍政権移行後、金融緩 和、景気回復期待で不動産株が大きく上がる中、 倉庫三社も含み益を有する会社として評価され たことが大きいと考える。
 しかし同社の業績そのものは下方修正が続き、 決して堅調とは言えない。
一三年三月期営業利 益は期初計画の七四億円から中間決算時点で六 五億円へ、第3四半期決算時点で五二億円へ下 方修正された。
今後は、三井倉庫ロジスティク スを中心にM&A案件の収益貢献を十分に顕在 化させるほか、海外投資案件の収益化によって 業績を拡大させていくことが求められる。
 同社は一二年十一月に策定した中期経営計画 「MOVE2013」で、?アジアパシフィック における成長領域への集中投資?プラットフォ ーム型サービスの開発と展開?資産ポートフォリ オの最適化─を掲げる。
数値目標は、最終年度 の一六年三月期に売上高一八〇〇億円、営業利 益一一〇億円、有利子負債残高一〇〇〇億円、 ROE八%超、D/Eレシオ一・五倍と定めた。
達成に向けては、?海外投資の収益貢献?三井 倉庫ロジスティクスの改善?既存事業の拡大─ がポイントになると見る。
 海外については、中計で示した「アジアパシフ ィックにおける成長領域への集中投資」に基づ き、タイ、インドネシア、中国などでは総額約九 〇億円の投資計画がある。
これらにより、一五 年三月期以降、約一〇億円の利益貢献があると バークレイズでは見ている。
 タイでは約二〇億円を投じ、バンコク近郊に倉 庫を新設する。
敷地面積約三万二〇〇〇?、延 べ床面積約一万九二〇〇?で、一三年十二月に 竣工予定。
スワンナプーム空港、レムチャバン港 へのアクセスにも優れる好立地を生かし、タイ 国内での消費財物流を進める。
 インドネシアでも約三〇億円を投じ、ジャカ ルタ市内の既存施設(延べ床面積約九〇〇〇 ?)を約一万七一〇〇?まで増床するほか、ジ ャカルタ東部地域のグリーンランド工業団地に一 四年以降に延べ床約三万二〇〇〇?の倉庫を建 設、日系製造業向けに物流機能を提供する。
 中国では、上海の錦江航運と資本金約四七億 円で設立した合弁会社「上海錦江三井倉庫国際 物流」を事業主体とし(同社出資比率は四九%)、 上海に延べ床約五万?の倉庫を新設する(投資 額四〇億円)。
中国国内向け食品関連需要に対 応し、流通加工業務、通販業務なども行う。
 三井倉庫ロジスティクスのM&Aについては、 三井倉庫 株価は堅調ながら相次ぐ下方修正 3PLと海外事業が業績浮上の鍵  家電製品取扱いの伸び悩みや中国・欧州の減 速などを理由に業績の下方修正が続いている。
三 洋電機ロジスティクスの買収は、まだ十分な成果 を生み出すには至っていない。
海外展開も、投 資余力で三菱・住友の後塵を拝する中、高い効 率性が求められている。
第83回 姫野良太 バークレイズ証券 株式調査部 運用担当アナリスト 69  APRIL 2013 同社がM&Aを通じて単純な倉庫保管事業から の脱却を目指していることが背景にある。
同社 は一二年四月に三洋電機ロジスティクスを完全 子会社化し(買収金額二四二億円)、社名を「三 井倉庫ロジスティクス」とした。
三洋電機ロジ スティクスの一一年三月期売上高は四一六億円。
家電分野の消費者物流に強みを持つ三洋電機ロ ジスティクスのノウハウを得て3PL事業を強化 する。
円高の長期化で家電製品の海外生産が加 速する中、三井倉庫の海外ネットワークを活用 して国内外一貫物流体制を確立する。
 ただ一三年三月期は景気低迷の影響で、三井倉 庫ロジスティクス分に相当するグループのロジス ティクスシステム事業の営業利益期初計画二二 億円は、第3四半期決算時点で七億円まで下方 修正されている。
取扱品の四割が 家電量販、四割 が家電メーカー と景気敏感な品 目構成である上、 商品供給の変動 にオペレーショ ンがマッチせず、 コストが余計に 発生したという 要因もあった。
今 後は営業努力に よる取扱拡大だ けでなく、スペー スの集約による 外注費、賃料抑制といったコストサイドの対応も 進めることで収益力を上げていく必要がある。
既存事業も伸長傾向  他方、既存事業については、景気回復に伴い 倉庫事業が伸びていくとバークレイズでは見る。
倉庫事業収入には、保管料と倉庫荷役料がある。
保管需要は在庫に連動し、費用はほぼ減価償却 費のみであるため、在庫水準が高くなると利益 が出やすい。
主要倉庫会社二一社を対象とする 国土交通省の「営業普通倉庫統計」によると、 一二年(一〜一〇月)の保管残高数量の月次平 均は前年同期比二・三%増の四六九万トン。
震 災影響の反動増もあったと考えられるが、二年 前の一〇年同期比較では〇・八%減と、まだ増 加する余地はありそうだ。
 一方、倉庫荷役需要は、鉱工業生産に連動す る傾向がある。
企業の生産活動が上昇すると荷 動きが活発になるからだ。
鉱工業生産(前期比 変化率)の当社見通しは、一二年一〇〜十二月 期二・〇%減(実績)、一三 年一〜三月期四・ 七%増、四〜六月期二・三%増、七〜九月期一・ 七%増、一〇〜十二月期二・二%増。
一〜三月 期にプラス転換を見込んでおり、一三年前半に も荷動きの底打ちで荷役需要も拡大してくると 見る。
ただ、倉庫会社は荷役作業を地場の荷役 会社に委託することが多く、下払い費用が発生 するため、利益率は低い傾向にある。
 同社の財務体質は倉庫大手三社の中では相対 的に見劣りする(一二年三月期自己資本比率は 同社二五・八%、三菱倉庫五九・九%、住友倉 庫四九・一%)。
成長に向けた投資と財務体質 改善のバランスも重要な経営課題になろう。
 投資については、投資余力が大手三社(同社、 三菱倉庫、住友倉庫)内では相対的に劣ってし まう上、レバレッジには限界があるため(一六 年三月期D/Eレシオ一・五倍目標)、リターン の高い案件に投資することが求められる。
 計画が順調に進捗すれば、一四年三月期〜一 六年三月期にかけて、四〇〇億円程度の営業キ ャッシュフローが生まれるが、配当やメンテナン ス投資一〇〇億円、負債返済一〇〇億円を除く と、年間投資額は七〇億円程度となり、三菱倉 庫の二〇〇億円や住友倉庫の一四〇億円と比較 して、投資余力は劣ってしまう。
 財務体質改善の観点からは、キャッシュフロ ー最大化により債務削減を進めることが考えら れる。
同社は神戸市中央区に所有する三宮駐車 場の土地を長谷工コーポレーションに二七億五 〇〇〇万円で譲渡する(一三年四月予定)ほか、 大阪・中之島の駐車場土地は一二年に譲渡して おり、資産ポートフォリオの見直しが進んでいる。
 利益成長と財務体質改善を両立させて、中期 経営計画を達成することは容易ではないが、以 上のような取組みを継続深化することで、同社 への評価は高くなると考える。
ひめの・りょうた 二〇〇四年慶應義塾大学経済学 部卒業、同年三菱証券入社。
明治 ドレスナー・アセットマネジメント のアナリスト、三菱UFJモルガ ン・スタンレー証券の運輸セクタ ー担当シニアアナリストを経て、一 二年四月より現職。
《出来高》 過去10年間の株価推移

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