ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年4号
ケース
富士重工業 生産物流 工場スペースの制約をJIT物流で克服協力会社の拠点で生産と搬入を同期化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2013  54 「スバルウェイ」のモノづくり  「スバル」のブランド名で自動車などを生産 する富士重工業は現在、主に群馬県太田市に ある「群馬製作所」と米インディアナ州にあ る「SIA」の二カ所で自動車を生産してい る。
昨年十二月からマレーシアで現地企業を パートナーとするノックダウン(KD)生産も 開始したが、まだ年間五〇〇〇台余りで全体 の約一%にも満たない。
 同社が一年間に生産する自動車の台数は約 八〇万台(OEM含む)で、他の自動車メー カーと比べると規模が一けた小さい。
そのた め生産拠点を分散させず、海外販売の台数比 率が七割以上に上っている今も、群馬製作所 で全体の七割超を生産している。
 その群馬製作所は本工場、矢島工場、大 泉工場という三つの生産施設で構成される。
このうち大泉工場はエンジンとトランスミッシ ョンの生産に特化しており、ほかの二工場で 完成車の組み立てなどを行っている。
 かつて本工場では、「てんとう虫」の愛称 で親しまれた「スバル360」をはじめとす る軽自動車を作っていた。
しかし、同社は二 〇〇八年に軽自動車の自社生産から撤退する 方針を決断。
軽については全量を、トヨタグ ループのダイハツ工業からOEM供給を受け ることにした。
 これに伴い本工場では一二年三月から、そ れまでの軽に代えて、トヨタと共同開発した スポーツカー「BRZ」(トヨタ名「86」)の 生産を開始している。
その後、フル稼働状態 にあった矢島工場から「インプレッサ」など 二車種の生産も本工場に一部移管。
現在では 年間十二・五万台程度を生産している。
これ を次のステップでは一八万台へと引き上げて いく方針だ。
 一方の矢島工場は「レガシー」や「インプ レッサ」などを年間四〇万台余り生産する現 在の主力拠点となっている。
ただし「矢島工 場の生産能力はもう限界。
かといって当社は あちこちに工場を作ることはできない。
限ら れた経営資源の中で、いかにコンパクトに生 産ラインを作り上げるかが一番の命題になっ ている」と、富士重工業の富岡伸哉スバル製 造本部群馬製作所生産技術管理部担当部長 (物流企画)は説明する。
 富岡担当部長の所属する「生産技術管理 部」の物流企画部門は、新しく開発した車種 の生産を立ち上げる際の物流や、サプライヤ ーから部品を調達するときの生産物流の効率 化などを担当するセクションだ。
海外で行う KD生産の物流も同部が管轄している。
一方、  限られた構内スペースを有効利用するために物 流の効率化を進めてきた。
2009年からは工場周辺 にある協力物流会社の拠点で生産順にセットした 部品をラインに供給する「同期搬入」を本格化し た。
物流の「視える化」を徹底し、コストにこだ わってオペレーションの高度化を図っている。
生産物流 富士重工業 工場スペースの制約をJIT物流で克服 協力会社の拠点で生産と搬入を同期化 富士重工業 スバル製造本部 群馬製作所の富岡伸哉生産 技術管理部担当部長(物流企 画) 55  APRIL 2013 生産活動が軌道に乗ってからの日常的な生産 物流の管理は、別に「製造管理部」が担うと いう役割分担をしている。
 富士重工は〇六年にトヨタ自動車と業務資 本提携を結び、現在ではトヨタが一六・五% の株式を所有する筆頭株主になっている。
し かし、オペレーション面でのトヨタの影響は限 定的で、物流企画部門とトヨタとの日常的な 接点もほとんどないという。
 共同開発したスポーツカーの生産ラインを 本工場に構築したときにも、アドバイスこそ 受けたがトヨタの指示通りに動いたわけでは ない。
スペースの制約を受けながら新車種の 生産ラインを立ち上げるノウハウは、むしろ 富士重工ならではのものだった。
 「大手であれば新しい生産ラインはゼロか ら立ち上げるのだろうが、うちは違う。
群馬 製作所には完成車の生産ラインが三本あって、 一本は本工場に、二本は矢島工場にある。
こ のうち一本でも止めれば、経営的に非常にイ ンパクトが大きい。
そのため本工場では軽自 動車の生産を止めることなく、新たに『BR Z』などを生産できる体制を整えた」と富岡 担当部長は振り返る。
 生産分野における物流改善でも、富士重工 独自のノウハウを重視している。
同社は〇七 年から米国市場を意識した主力車種の大型化 に踏み切っている。
海外シフトという決断は 現在の好業績につながったと同時に、仕様の 多様化を招いた。
工場スペースに制約を抱え る同社にとっては深刻な問題だった。
 これに同社は「変種変量短生産」と呼ぶ独 自のコンセプトに基づいて対応している。
生 産する車種や量が変化しても、最小のロスで 対応し、短いリードタイムで遅滞なく生産し てユーザーに届けるというもので、同社が「S MW(スバル・マニュファクチャリング・ウェ イ)」と名付けて体系化したモノづくりの考え 方が、そのベースとなっている。
「運ばないのが最良の物流」  生技管理部の物流企画部門は、こうした生 産活動を物流面から支えるために〇九年に設 置された。
生産ラインを基点に工場内でモノ を移動する「構内物流」と、社外のサプライ ヤーから部品などを調達する「構外物流」の 二つの領域で効率化に取り組んでいる。
 ?運搬のムダ?をなくすことを何より重視し、 「運ばないのが最良の物流」という考え方を 徹底している。
どうしても運ばざるを得ない 物流費を「視える化」して効率化を推進 取引先・購買部門製造本部 部品費 部品費評価 部品費改善 部品費低減輸送費低減 輸送費 部品単価 輸送費を富士重工が独自に作成したコストテーブルと比較・検証することにより、 物流改善のネタ発掘、物流コスト低減→部品費低減活動 に寄与 輸送費評価 改善ネタ出し フィードバック 輸送ルート  輸送距離   輸送荷量    輸送ダイヤ ●基幹物流の活用 ●中間デポ廃止 ●横持ち費用削減 納入諸元 コストテーブル 3 部門 コラボ活動 群馬製作所を中心とする調達から出荷までの流れ 海外 調達(納入)…車両生産に必要な部品+サービス部品の調達売却(出荷) …海外生産用+部品ビジネス用の出荷 国内海外 取引先C 取引先B 本工場 外部倉庫 取引先A 矢島工場 大泉工場 マレーシア SIA 販売店 A 社 海外部品調達 (量産・補修品) 出荷 (量産・補修品) 製造本部・物流企画部門の担当領域 国内部品調達 (量産・補修品) ※SLCO=スバルロジスティクス ※SIA=米国工場(スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ) 群馬製作所 SLCO 部品センター ときは、「必要なものを、必要な時に、必要 だけ、効率よく運ぶ」。
さらに「安・近・短」 の思想に基づいて、安全に安く必要最低限の 費用で、ラインサイド近くで仕様や順番を作 り込み、運ぶ距離やリードタイムを短くして いくことを常に追求している。
 具体的には以下の六つの観点から日々の活 動を展開している。
 ?輸送・運搬の距離を減らす?荷量を減ら す?オペレーションの管理ができる仕組みづ くり?在庫削減?ムダなハンドリングを減ら す?積載率の向上─である。
 中でも注力しているのが「?オペレーショ ンの管理ができる仕組みづくり」による物流 の「視える化」だ。
サプライヤーから部品を 調達する業務では、「視える化」を切り口に 従来の商習慣にメスを入れることで効率化を 進めている。
 「サプライヤーから納入される部品の単価 工が主体になって運用しているケースを「同 期搬入」と呼んでいる。
 部品サプライヤーが運用する「同期納入」 では、事前に富士重工が提示した生産計画に 基づいて、一日の生産に必要な部品を複数回 に分割して納品する。
この場合、生産ライン への最終的な同期作業は、工場内で富士重工 が自ら手掛けることになる。
他方、「同期搬 入」では、社外の同期拠点で構内のラインサ イドで実施するのと同様の調整を行う。
 工場での生産作業は、まず鋼材をプレスし て車のボディを成形し、塗装を施す。
塗装済 みのボディはストレージと呼ぶエリアで一時待 機。
ここで作業の進捗に応じてラインに流す 順番を調整し、最終組立へと進む。
ストレー ジを出た時点で、組立ラインを流れる車種の 生産順が確定することになる。
 このタイミングで同期搬入作業をしている 拠点に指示を出す。
同じ車種を生産する場合 でも、仕様が異なれば必要な部品が変わって くるため、同期拠点では、この指示に基づい て必要な部品をピッキングして、生産の順番 通りにセットした上で工場に納品する。
には、部品代と輸送費が含まれている。
これ を切り分けて、部品代については購買部門が、 輸送費については我々が高いか安いかを評価 して、結果をサプライヤーさんにフィードバッ クしている」と富岡担当部長。
 そして輸送費については、物流企画部門 のメンバーが取引先に出向いて切り口を一緒 に探しながら改善に取り組む。
そのために物 流企画部門は、発生する原価や運賃タリフに 基づく独自のコストテーブルを作成している。
これを一つの判断基準として、部品ごとの輸 送費が適正か否かをチェックしていく。
この 作業によって、「ある車種では部品調達のた めの輸送費の約三割が基準より高いといった 傾向が見えてきた」(富岡氏)という。
「同期搬入」を本格化  富士重工はJIT生産による無在庫化は指 向しておらず、構内のラインサイドに適正な 部品在庫を持つことで生産活動を効率化する というアプローチを取っている。
それだけに 完成車の仕様の増加は、在庫スペースの増大 に直結する。
これを抑制するために、生産ラ インと部品の動きを同期する拠点を工場の外 にも置いて、富士重工が自らコントロールす ることに乗り出している。
 社外の拠点を使った同期の方法には「同期 納入」と「同期搬入」という二通りのやり方 がある。
部品サプライヤーが主体になって業 務を実施しているものを「同期納入」、富士重 APRIL 2013  56 富士重工業 スバル製造本部 群馬製作所で生産技術管理 部・物流企画の主査を兼務 する齊藤秀毅第2生産技術部 主幹 日本運輸 (本社) 大泉工場向けデポ 太田桐生I.C. 北関東自動車道 工場周辺の社外同期拠点と主な役割 矢島工場 大泉工場 本工場 バンテックイースト 矢島工場向け同期 日発運輸 (太田センター) 矢島工場向け同期 青木運輸倉庫 (太田) 矢島工場向け同期 2? バンテック (太田営業所) 本工場向け同期 太田駅 日本運輸 (関東LC) 本工場向け同期 日発運輸 (内ヶ島) 本工場向け同期 八六〇〇平方メートルのスペースを創出でき たと試算している。
「業務を社外に出さなけ れば、これだけのスペースを増やす必要があ った」と富岡担当部長は説明する。
全国各地にサプライヤーの共用デポ  社外同期業務には多くの制約もある。
対象 車種が確定してから部品のピッキングなどを スタートするため、社外から同期搬入できる 部品は生産ラインの後半で使うものに限定さ れる。
同期拠点から工場までの輸送リードタ イムが離れ過ぎても実施できない。
 従来はサプライヤーに一任していた納入業 務のコントロールを、富士重工自身が肩代わ りすることになるため、新たな手間も発生す る。
場合によっては、社外の業務パートナー に支払う外部委託費などによってコストアッ プになる可能性もある。
 「必要なスペースを工場内で確保できない以 上、同期業務は社外に出すほかなかった。
そ れでもコストが必ず下がることを前提として、 対象となる部品を慎重に選んで取り組みを進 めてきた」と、群馬製作所で生産技術管理 部・物流企画の主査を兼務する齊藤秀毅第二 生産技術部主幹は強調する。
 同期拠点を構えることによって、新たなコ スト削減策も可能になった。
同期拠点に部品 を調達する輸送を、富士重工が主導して共同 化する取り組みだ。
同社はこれを「調達動線 集約の取り組み」と称して実施している。
既 に東北、静岡、東海、滋賀、関西、近畿・ 中国の各エリアにサプライヤーの共用デポを設 けて、群馬を起点にミルクラン方式で部品を 集荷するトラックを走らせている。
 このように富士重工の物流企画部門は、物 流費の「視える化」をベースに調達物流の改 善に取り組んでいる。
富岡担当部長としては、 「全社横断的に横串を通す部門があれば、調 達物流だけでなくもっと効率化の余地を広げ られるのではないかと個人的には思っている。
マレーシアに生産拠点を増やしたこともあっ て、当社も全体として物流を見直す時期にな りつつあるのかもしれない」と考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)  社外同期拠点の実務は協力物流会社に委託 している。
いずれも自動車業界で実績のある 物流会社ばかりだ。
バンテックとバンテック イーストはかつて日産の系列物流会社だった が、今では日立物流グループに所属して自動 車関連の物流を積極的に手掛けている。
 大手部品メーカーの日本発条の子会社であ る日発運輸や、ダイハツなどと付き合いの深 い青木運輸倉庫も同期拠点の運営に携わって いる。
またホンダと関係の深い日本梱包運輸 倉庫が地域子会社として群馬に本社を構えて いる日本運輸も名を連ねている。
 協力物流会社に対する富士重工の基本的 なスタンスは、取引実績のある事業者と毎年、 目標を共有しながら長い付き合いのなかで効 率化を進めていくというものだ。
頻繁に物流 コンペを開いて協力会社を見直すといったや り方は取っていない。
 たとえば日本運輸との付き合いは既に五〇 年近い。
同社の「関東ロジスティクスセンタ ー」では現在、本工場向けの「同期搬入」業 務を手掛けている。
サプライヤーのバッテリー やランプなどを在庫して、富士重工の工場か ら発信される指示に基づいて必要な部品をピ ッキング。
二四台分を専用台車に順番通りに セットして、三、四〇分に一回の頻度で本工 場に納品している。
 富士重工は〇九年以降、こうした社外同期 拠点による効率化を本格的に進めてきた。
そ の結果、本工場と矢島工場の二カ所合計で約 57  APRIL 2013 「同期搬入」を手掛ける現場(日本運輸・関東LC) ミルクランの起点としても機能 バッテリーを専用で積む台車 各種の台車を大型車輌で搬送24台分の部品を収納する台車

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