ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
特集
物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 物流改革へのテクノロジー

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流改革へのテクノロジー JUNE 2003 18 ◆テクノロジストが改革を実現する 最近、テクノロジストという言葉が目につくよ うになった。
有名な経営学者のP・F・ドラッカ ー氏がつぎのように主張しているからである。
「テ クノロジストとは、高度な専門技術や技能をもっ たナレッジワーカーのことであり、企業社会の激 しい変化の中で、新しいマネジメントのイノベーシ ョンを牽引する役目となるべき人々のことを指し ている:注1」。
日本の物流業界を考える時に、今までテクノロ ジストが十分に活躍してきたかどうかと問われる と、自信をもって肯定できるかどうか疑問である。
物流がロジスティクスというモダンな呼名に代わ り、ロジスティクス業界の新しい動向について多 くの企業人が関心をもつようになり、この分野の 専門家がさかんに紹介記事を執筆するようになっ た。
しかし、これはまだロジスティクス啓蒙時代で しかすぎず、本当の意味でロジスティクスが開花 し、根付いたわけではない。
それでは、何をもって 開花したと言えるのであろうか。
多くの企業が将来の生き残りをかけて、マネジ メント改革をしようと努力しているが、掛け声だ けで、あるいは単なる思いつきやアイデアだけで、 その改革が実現するわけではない。
実現に至るた めには、経営のテクノロジー、言い換えると科学 的な方法の基礎力をその企業がもっていなければ ならない。
それが無くては、なかなか成功するもの ではない。
一部の先進的企業に、このようなテク ノロジーをもった人々がいるだけでなく、広く物 流業界全体に増えてくれば、ロジスティクスが開 花した時代に突入したと言えるのではないだろう か。
消費者が求める商品、分かりやすく言えば、人々 が殺到して買い求めるような商品やサービスを企 画したりする分野を企業における車の両輪の一つ とすれば、ロジスティクスは、両輪のもう一方であ る。
ロジスティクスは、結局、科学的なアプロー チによって、顧客が求める商品をデマンドプル式 に供給する緻密なシステムづくりを行うことに尽 きると言っても過言ではない。
そこにテクノロジー の基礎が不可欠であることは言うまでもない。
また、ロジスティクスの分野で著名な英国の学 者、マーチン・クリストファー氏は、「プロセス・ ケイパビリティが、企業の競争力を決める:注2」 と言っている。
サプライチェーンにおける各ビジネ スプロセスの能力、この場合の能力は量的な能力 のキャパシティではなく、質的な能力であるケイパ ビリティであり、新しいノウハウやテクノロジーを 駆使したり、自ら生み出したりできる能力がビルトインされているかどうかが、企業競争力の決め 手であるという。
ドラッカーと同様の主張を別の 表現で言い当てたものと思われる。
◆物流分野へのIE適用 さて、ここで提唱したいことは、物流分野への IE適用の再認識である。
IEとは、インダスト リアル・エンジニアリングのことである。
カタカナ 英語のままでは、長くて言いにくいため、一般に 省略してIE(アイ・イー)と呼んでいる。
IE の定義は、以下のとおり知られている。
「IEとは、人・もの・設備を総合したシステムの 設計・改善・確立に関する活動であり、そのシス テムから得られる結果を明示し、予測し、評価す いよいよ日本でも物流分野においてプロのテクノロジストが活躍 する時代に突入した。
IE(インダストリアル・エンジニアリング) や新しい情報技術を駆使して、マネジメントの改革ができる人材が 強く求められるようになる。
このような人材が、改革を実現する牽 引役となるだろう。
福島和伸城西大学 教授 19 JUNE 2003 るために、工学的な分析・設計の原理・方法とと もに、数学、物理学および社会科学の専門知識と 経験をよりどころとして行うものである:注3」。
簡単に言えば、いかに経営資源(人、もの、設 備)を使いこなすためのシステムを作り上げるか、 そのための技術である。
生産分野では、すでに古 くからIEの適用が進み、ある意味で常識化して いるが、物流分野でのIE適用は、とくに日本に おいてまだ不十分と言わざるをえない。
IEの発 祥地である米国では、早い時期から、生産分野に 限らず、物流、教育、病院、管理間接業務、公共 機関などで適用の試みが進んでいる。
ひところ、リエンジニアリングが流行語となった ことがあるが、この場合、もともとエンジニアリン グがあって、その上に、新しい時代の変化に対応 すべく、エンジニアリングを根本的に構築し直そ うという意味である。
しかしながら、日本の物流 分野において、今まで十分にエンジニアリングがあったと言えるかどうか疑問であり、むしろリエン ジニアリングの前にエンジニアリングを導入すべき ではないかと皮肉さえ言うことができる。
さて、物流分野には、三つの側面があると考え られる。
作業、在庫、輸配送である。
一方、技術 としてのIEは、従来より俗に「クラシックIE」 と「モダンIE」という区別がされている。
それぞ れの関係は、図1のとおりである。
◆ワークスタディ中心のクラシックIE クラシックIEとは、ワークスタディ(作業研 究)を中心とした専門領域を指している。
作業を 分析し、作業量(仕事量)を測るために標準時間 という客観的な数字の基準を設定する。
さらにワ ークスタディは、「ワークメジャメント(作業測 定)」と「メソッドスタディ(方法研究)」に大き く分けられる(図2)。
このような抽象的な用語解説だけでは、理解で きないので、簡単な例を用いて説明しよう。
ワー クメジャメントとは、人間の作業における仕事量 を数字で示すことであり、一般に、時間という尺 度を使って仕事量をアクティビティの単位で表す。
たとえば、ある物流センターでの入荷作業という アクティビティが、パレット枚数で物量を数えて いるとする。
この入荷作業のパレット一枚当たり の標準時間を設定することによって、このアクテ ィビティの仕事量を客観的に示すことができる。
仮に、この入荷作業の標準時間をパレット一枚 当たり一〇分と設定したとすれば、十パレットの 入荷作業を行うためには、一〇〇分相当の仕事量 になるわけである。
この入荷作業を一人で担当す れば、一〇〇分かかることになるし、もし二人で 担当すれば、五〇分で処理できることになる。
なぜ仕事量を表すために、物量値ではなく標準 時間という時間値を使用するのであろうか。
物量 値さえ見ておけば、仕事の繁閑を判断することが できるのではないかと思うかもしれない。
もし本日 の入出荷トラックの台数や入荷パレット数が多け れば、本日は忙しいということになる。
しかしなが ら、入荷パレット数が多くても、単純に忙しいと は言えない。
たとえば、そのままパレットの横流し状態で、顧 客に出荷してしまう場合もあるし、一方では、多 数の顧客向けに小口に分け、値札付けなどの流通 加工までして出荷する場合などがある。
同じパレ 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 図1 ロジスティクスの3つの側面とIEの適用 対象分野 目 的 適 用 作業 在庫 輸配送 物流部門での種々の作業を客観的に 分析して作業標準を設定し、作業改 善を行って、生産性を向上する 在庫をコントロールするための技術 的なノウハウを駆使して在庫を適正 化するとともに、欠品を防止する 輸配送のアルゴリズムを考案したり、 輸配送システムを設計し、効率化と 顧客サービスの向上を実現する Classic IE Classic IE +Modern IE Modern IE ロジスティクスおよび サプライチェーンマネジメント 図2 IEの体系 IE(インダストリアル・エンジニアリング) ワークスタディ (クラシックIE) 物流作業の改善 システム設計技術 (モダンIE) 輸配送、在庫問題の解決 ワークメジャメント 標準時間の設定 メソットスタディ 作業方法の改善 応 用 実際の場での適用 JUNE 2003 20 ット一枚という物量を取り扱うにしても、その物 流センターでの仕事量は大きく異なる。
その物流 センターでは、曜日によって、あるいは月の上旬 と下旬とでは、上記二つの作業内容タイプの比率 が変わるかもしれない。
そこで、アクティビティごとに標準時間という 尺度をもつことによって、正確に仕事量をつかむ ことができる。
また、時間と言う尺度を使用する ことによって、異なったアクティビティの仕事量を 合計するという計算ができるのである。
このような標準時間を設定するためのノウハウ やシステム、すなわち技術については、すでに長年 にわたる多くの企業での蓄積、そして、数多くの 専門家によって体系的な整理ができている。
せっ かく、このような基礎的な技術があるにもかかわ らず、これを真剣に学ばずして、物流センター運 営の合理化を行うことには限界がある。
定石を知 らずに、思いつきでことを進めようとしていること になる。
◆体系化されている改善技術 仕事量を客観的に分析する過程で、現在の作業 のやり方について、いろいろ改善すべき点に気が つく。
このようにして、作業方法の改善に取り組 むことをメソッドスタディという。
改善の手順や 手法についても、すでに多くの企業で効果が実証 されてきた手順がある。
改善の定石として、練りに練られた形で使える ようになっているので、いまさら自己流で始める 必要はない。
自己流で行うと、むしろ改善推進の 効率が悪く、説明力が欠如するなどの問題がある。
このような改善の手順は、すでに、いわゆるグロー ◆新しい情報技術を駆使して 問題解決をはかるモダンIE 物流分野の二つの側面である在庫と輸配送の問 題は、現在、新しい情報技術を駆使したシステム をいかに作り上げるかにかかっている。
このような 問題解決に適用できるのがモダンIEである。
とりわけ最近のスケジューリング技術の発展に 大きな期待ができる。
現代における在庫の問題は、 在庫を部分的に管理するだけでなく、サプライチ ェーン上の全プロセスの在庫(生産仕掛り中のも の、倉庫や物流センター内の在庫、輸送経路上で の停滞中・移動中のものなどすべてを含めた在庫) をいかに減らすかという取り組みをしていく必要 がある。
しかも、最終顧客の要求を絶えず満足さ せなければならない。
このためには、最終消費者の「引っ張り」を即 時にサプライチェーン上流の各プロセスに伝達す ること、そして、その情報にもとづいて、引っ張ら れた分だけ生産をし、供給をすることができるよ うなシステムが必要である。
このようなシステムは、 一昔前までは実現が困難であったが、この数年の 情報通信技術の急速な進歩によって可能性が見え てきたのである。
ピンと張られたロープ(タイトロープ)のイメー ジで説明するならば、ロープを引っ張っているのは、 末端にいる消費者だけであり、複雑に枝分かれし た各プロセスにロープがつながっている。
各プロセ スは、自らの駆動装置をもっていない。
もし、ど こかのプロセスで、引っ張られていないのにもかか わらず動いたとすると、そこにはロープのたるみが 発生することになる。
バルスタンダード化しているので、定石にしたがっ て進めていくと、海外を含めた関連会社や取引先 の企業の人々へ説明する場合でも、容易に理解し てもらえることになる。
下手に自己流で実施する と、用語の使い方や概念まで相手に正確に伝わら なくなってしまう。
◆物流作業の数量化のメリット 物流作業の数量化は、物流センター内の作業改 善やレイアウト改善を行うにあたり、改善効果の 見積りができるほか、さらに多くの用途がある。
たとえば、次週の曜日別取扱い物量の予測をアク ティビティ別に行い、それによって曜日別の所要 人員数や所要残業時間などの算出が可能となる。
そして、パートタイマーやアルバイト人員数の調 整、残業時間計画が可能となり、仕事量(負荷 量)に合わせた能力計画を行うことができるよう になる。
また、アクティビティごとに標準時間が設定さ れているので、標準時間をベースにした適正な物 流作業料金の設定ができる。
物流作業は、外部の 専門業者に委託して行われる場合が多いので、荷 主と物流業者の両社が納得できる設定が望まれる。
これは非常に重要な標準時間の用途である。
とく に日本において、標準時間設定を行う最大の理由 は、物流作業料金設定の基準を作るためとする企 業が多いと思われる。
さらに、標準時間と実績時間とを比較すること によって、作業能率や作業稼働率が算出され、能 率管理や稼働率管理を行うことができる。
そして、 この数量化がABC(アクティビティをベースに した原価計算)の基礎にもなるのである。
21 JUNE 2003 ロープがたるむということは、そこに余計な在 庫が発生することであり、結果として、サプライ チェーン全体のリードタイムが長くなる。
引っ張 られていないのに、供給者自らの都合や判断で動 いてはいけないというのが原則である。
これが、プ ルシステム指向であり、カスタマー・ドリブンとい うことの意味である(図3)。
◆アンチテーゼとしての スケジューリング このように、下流の顧客からサプライチェーン の上流へ引っ張りを伝達する手段がスケジューリ ングシステムであると考える。
ここでのスケジュー リングは、もはや供給側で立てる計画を展開した ものではない。
供給側の計画ではなく、顧客の要 求をダイナミックに各プロセスへ伝達する手段と してのスケジューリングである。
言い換えるならば、プルシステム型のスケジューリングとは、時々刻々 変化する顧客要求に対応して、各プロセスに指示 を与える必要があり、そのためには、ダイナミッ ク・スケジューリングでなければならない。
世界的に有名になったトヨタ自動車のかんばん 方式は、プルシステムの代表であるが、かんばん 方式が考案された時代は、スケジューリングシス テムなど、ほとんど不可能な絵空事であった。
し たがって、スケジューリング技術を否定し、計画 とかスケジューリングに頼らない方法を追求して きた。
そして、かんばんという道具を使って、後 工程から上流の工程に向かって、要求を伝達して いく方法を生み出したのである。
しかしながら、かんばん方式は万能ではない。
喩 えが適切かどうか分からないが、つぎのように考え てみると分かりやすい。
最初に、和算系の鶴亀算 を習った小学生は、その方法に感心する。
しかし その後、中学で方程式という万能な方法を習うと、 もはや鶴亀算は必要ではなくなる。
かんばん方式 は、画期的な方法であるが、万能なスケジューリ ング技術にいずれ代わっていくかもしれない。
◆配送計画もスケジューリング技術 配送計画を英語では、「ヴィークル(Vehicle )ス ケジューリング」とも言うことから分かるように、 これもスケジューリングシステムの一種である。
毎 日、多数の顧客からの注文にしたがって、いかに 使用トラック台数を減らし(積載効率を上げ)、総 走行距離または総走行時間を減らすべく、積込み 計画(ルート計画)、運行計画を組み上げるかがね らいである。
また、毎日の受注締め切り後、いかに早くピッ キングリストとトラック別の積込み指示書が発行 できるかによって、出荷のリードタイムを短縮する ことができる。
実はこの効果は非常に大きい。
宵 積みの場合、出荷作業の残業時間を減らすことが できたり、あるいは、受注締切時間を遅くするこ とができるからである。
この一〇年ほど、先進的な企業を中心に、配送 計画のコンピュータ化の取り組みが大きく進展し 始めた。
まだ、本格的に成功している企業は少な いが、今後、少しずつ導入が進むと思われる。
一 度、これに成功した企業は、もうこのシステム無 くして、手作業にもどることは考えられないだろう。
それほど、効果的かつ効率的なシステムの例であ る。
◆啓蒙時代からプロの時代へ上記のような技術的課題の例は枚挙にいとまが ない。
これらの問題解決、新しいシステムの開発 のためには、プロのテクノロジストの存在が必要と される。
ようやくロジスティクス啓蒙時代から、プ ロフェッショナルが活躍する時代に移行しつつあ るというのが、ここでの主題であった。
従来の啓蒙時代においては、一般の経営雑誌で 語られるような物流業界の動向や今後の見通し、ど の会社がどんな取組みをしているかなどの評論家 的な紹介などを話題にするレベルで済んでいた。
も ちろん、これからも業界の動向を見ながら経営戦 略的な議論が必要であるが、自ら新しいシステム 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 図3 プルシステムとプッシュシステム 従来のプッシュシステム プルシステム 顧客 顧客 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 JUNE 2003 22 を作り上げるプロのテクノロジストがいなければ、 具体的に改革が進展していかないのである。
いく ら自らこのように改革したいと構想を描いても、そ れを着実に実現する人材がいなければ、やはり実 現しないのである。
その昔、「科学する心」という表現が使われたこ とがある。
プロのテクノロジストとは、今までの技 術の基礎的な蓄積を十分に学んでおり、その問題 解決において何が本質的なことであるのか見極め ることができ、科学的な方法により取り組み課題 を進めていく力をもった人材であろうと思われる。
ロジスティクス業界におけるマネジメント改革を 進めていくためには、まさに「科学する心」を実 践する人材の育成が強く求められているのではな いだろうか。
一朝一夕に十分な人材が出現するも のではないが、急務であることは間違いない。
《注》 1 日経ビジネスSpecial Issue Information Strategy, pp.36-43, No.4, 2003 2 講演(International Symposium on Logistics at The University of Nottingham ), 1993 3 IIIE: International Institute of Industrial Engineers による定義 ふくしま・かずのぶ 1949年 生まれ。
早稲田大学理工学部応 用物理学科卒業、早稲田大学大 学院理工学研究科修士課程(工 業経営学)修了。
松下電器産業 ?生産技術研究所に勤務、日本 能率協会チーフコンサルタント を経て、現在、城西大学経済学 部経営学科・大学院経営学研究 科教授。
早稲田大学より博士 (学術)を授与される。
技術士 (経営工学)。

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