ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
特別レポート
台湾物流市場日系宅配大手三社が激突

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

11 SEPTEMBER 2002 台湾の陸運業界に異変が起きている。
長年、最 大手として業界に君臨してきた大栄汽車貨運の業 績が低迷。
ここ数年、急成長を続けている業界二 位の新竹貨運に今期は売上高で逆転されることが 確実視されている。
大手二社に続く二番手グルー プ筆頭の中連貨運の業績も振るわず、大手同士の 競争では新竹貨運の一人勝ちが鮮明になっている。
その一方、宅配専業の新興企業の台頭も目立っ てきた。
民間宅配業者の統一速達と台湾宅配通の 二社の取扱個数は今期、合計で一六〇〇万個程度 に達する見込みだ。
両社とも当初の計画を大幅に 上回るペースで扱い規模を伸ばしている。
民間の 参入からわずか二年足らずで、宅配市場の官民の シェアが逆転することになる。
こうして台湾の物流市場の勢力図が大きく塗り 替えられようとしている背後には、日本の大手宅 配会社が存在している。
新竹貨運は佐川急便。
統 一速達はヤマト運輸。
そして台湾宅配通は日本通 運が、それぞれブランドも含めて全面的に技術供 与している。
台湾市場はさながら「飛脚」「クロネ コ」「ペリカン」のマークが軒を競う日系宅配大手 の代理戦争の様相を呈している。
台湾の物流市場は、かつての日本とよく似てい る。
行政管理上、トラック運送事業は路線と区域 の二つに区分されている。
大栄貨運や新竹貨運な どの路線業者は業界大手として全国にネットワー クを持ち、主に大手メーカーの元請け的立場でB to B輸送を担っている。
一方、区域業者は中小業者 による貸し切り輸送がメーンだ。
設備やサービスは現在の日本の物流業者と比べ ると、かなり見劣りがする。
路線業者といえども 仕分けはほとんど手作業。
日系宅配業者が技術供 台湾物流市場 日系宅配大手三社が激突 台湾で宅配便市場が急拡大している。
ヤマト運 輸、佐川急便、日本通運など、日本の大手宅配業 者の技術指導を受けた現地企業が小口貨物の取扱 個数を爆発的に伸ばしている。
日本で生まれ育っ た宅配便が果たして海外でも通用するのか。
台湾 市場が格好の試金石になっている。
特別レポート SEPTEMBER 2002 12 与するまでは「送り状」も整備されていなかった。
ドライバーは完全に運ぶだけで、営業行為は行わ ない。
顧客に頭を下げるのはおろか、挨拶さえで きないものも少なくなかったという。
郵便局も料金は割安だが典型的な役人仕事でサ ービス業という意識が薄かった。
日本の宅配ノウ ハウが市場に導入されたことで、それが劇的に変 わった。
「歓迎光臨」。
中国語で「いらっしゃいま せ」を意味する言葉を最近、台湾の郵便局員が使 用するようになった。
「これにはみんなが驚いてい る。
それだけ郵便局の危機感が強いということだ ろう」と、ヤマト運輸から統一速達に派遣された 川田博総経理はいう。
二〇〇〇年に統一速達と日通系の台湾宅配通が 事業を開始するまで、台湾の郵便局は年間約一七 〇〇万個の小包を扱ってきた。
それが今や一〇〇 〇万個を割る水準まで低迷している。
川田総経理 は「当社は台湾に新たなマーケットを作ろうとし ているのであって、既存の市場に参入したつもり はない」というものの、郵便局が民間の宅配業者 に喰われる格好でシェアを落としている事実は否 定できない。
実際、台湾には郵便局以上に宅配便取扱店の看 板を掲げたコンビニ、現地語で「便利商店」が乱 立している。
町中には「クロネコ」や「ペリカン」 マークの集配車が四六時中、走り回っている。
今 や宅配便は郵便に代わるサービスとして台湾人の 生活に完全に定着した。
日本の宅配便が初めて海を渡った ヤマトの東京南支店で店長を務めていた川田総 経理が台湾転勤の辞令を受けたのは九八年八月の ことだった。
台湾における「宅急便」の事業化調 査がその使命だった。
台湾側でヤマトのパートナ ーになるのは現地でセブンイレブンを展開する統 一企業グループ、そして当初は陸運最大手の大栄 貨運が、そこに加わっていた。
まず郵便局や大栄貨運の取扱実績から三〇キロ グラム以下の小口貨物の既存市場を年間八〇〇〇 万個〜九〇〇〇万個と弾いた。
台湾の人口二三〇 〇万で割ると、一人当たり三・五〜三・九個とい う計算になる。
これに対して日本市場ではヤマト の「宅急便」だけで人口一人当たり年間七・五個 を運んでいる。
日本と同様に台湾でも、宅配便事業は既存市場 の攻略ではなく、どれだけ新規需要を創造できる かがカギだった。
また気温の高い台湾の地理的条 件を考えると、クール便の需要は日本以上に高い ことが予想された。
しかし通常のドライ貨物の他 にクール便も手がけることになれば、それだけ投 資負担は重くなる。
もともと宅配便は巨額の投資を必要とする典型 的なインフラビジネスだ。
採算分岐点に届くだけ の量を確保するまで、ネットワークの固定費負担 が事業者に重くのし掛かる。
そしてクール便への 参入は黒字転換の時期をさらに先延ばしすること を意味していた。
こうした宅配ビジネスの投資負 担とリスクに対して、統一企業グループと大栄貨 運には文字通りの「温度差」があった。
三社によ る提携は結局、白紙に戻ってしまった。
こうしてライバルがパートナー間の調整に苦労 している間に、台湾市場における宅配便の事業化 で一番乗りを果たしたのが伊藤忠商事と手を組ん だ日本通運だった。
二〇〇〇年七月一日、現地の 大手電機メーカー・東 元電機と台湾伊藤忠国 際などの出資で台湾宅 配通を設立。
同八月一 日から事業を開始した。
クールは扱わずドライ のみ。
拠点は台北の五 カ所に台中と高雄を加 えた計七カ所でスター トした。
台湾では路線業に対する外資の出資が認められ ていないため、日通は台湾宅配通に技術協力する という立場にとどまっている。
しかし台湾宅配通 のトレードマークは「ペリカン」をもじった「便 利CAN」であり、その仕組みは日本のペリカン 便を完全に踏襲したものだ。
これまでにも日通は国際物流事業の長い歴史を 持っている。
しかし、日本以外のドメスティック 市場に本格的にアクセスするのは、日通のみならず日本の物流業者として、日本が植民地政策を敷 いていた一時期を除き、初めてのことだ。
その意 味で台湾宅配通の事業開始は日本の物流業界にと って歴史的な出来事だったといえる。
台湾宅配通には現地の中堅物流会社・東源物流 も出資している。
しかし同社のリソースは立ち上 げの一時期を除き、ほとんど使用していない。
宅 配便という新しいサービスを開始するに当たり、台 湾宅配通は既存の物流業をベースにするのではな く、ドライバーも含めたリソースの全てをゼロか ら作り上げる道を選んだ。
その理由を、日通の勝島滋ペリカン・アロー部 小口事業戦略室室長は「実は当社も当初は大栄貨 13 SEPTEMBER 2002 運を始め、現地の路線業者との提携を検討してい た。
しかし既存の業者を宅配便という新しいビジ ネスに脱皮させるのは容易ではない。
路線業のカ ルチャーが染みついたドライバーを再訓練してサ ービスドライバーとして定着させるのは困難だと 判断した」と説明する。
価格は郵便局よりも若干安いレベルに設定した。
しかも郵便局ではやらない集荷まで行う。
それで も八月一日に集まった荷物は、数個というレベル だった。
しかし、日を追うごとに荷物は増えてい った。
そして台湾宅配通から二カ月遅れて一〇月 一日に統一速達がサービスを開始すると、市場に 一気に火がついた。
現地のマスコミ取材が殺到し、 連日のように流れる宅配便のニュースによって、サ ービスの認知度が一気に広まった。
台湾セブンイレブン&ヤマト連合 統一企業グループ、大栄貨運、ヤマトの三社に よるプロジェクトが頓挫した後、ヤマトは大栄貨 運を外し、改めて統一企業(統一超商)と二社だ けの業務提携に踏み切った。
「実はヤマトにも当初 は台湾でのビジネスに対して不安があった。
『宅急 便』は極めて日本的な商品であり、海外展開など 過去に一度も経験していない。
上手くいくという 保証など、どこにもなかった。
しかし、それを押 し切るほど統一の『宅急便』に対する思い入れは 強かった」と統一速達の川田総経理は振り返る。
統一企業グループは宅配事業を軌道に乗せるに は、長期的な視点で投資する必要があることをよ く理解していた。
黒字転換が先に延びることを承 知の上で、クール便の参入にも前向きだった。
実 際、統一速達はドライとクールを最初から同時に 特別レポート台湾宅配市場 ――最初からクール便をドライと同時に開始しまし たね。
固定費負担がきつくなるはずです。
「確かに当社の全投資額の三五%ぐらいをクール 便向け投資が占めています。
冷蔵ボックスなどは日 本から持ってくるしかないのが現状で、とても高い。
車両も二トン車で一〇〇万台湾ドル(約三五〇万 円)近くする。
クール便には莫大な投資がかかりま す。
それだけ採算ポイントも先になるということを、 最初に事業計画書の中で統一企業グループに報告し ました。
しかし、彼らはそれを全く意に介さなかっ た。
それだけ宅急便の事業化に強い熱意を持ってい る」 ――台湾の既存の物流企業を買収することは考えな かったのですか。
「それも検討はしました。
(台湾の物流業界三位の) 中連貨運を買収したらどうなるか試算してみた。
買 収には恐らく一〇億台湾ドル(約三五億円)近くの 資金が必要でした。
しかし、それで手に入れたとし ても、既存の物流業者と我々では必要な車両のタイ プも顧客も全く違う。
ドライバーも一から教育し直 さないといけない。
建物以外は結局、使えないと判 断しました」 ――幹部スタッ フはどうやって 集めたのですか。
「それも統一 グループの台湾 セブンイレブン がバックアップ してくれました。
『フィールドカ ウンセラー』と 呼ばれるコンビニ店の経営指導担当の若手を二〇名 ほど送り込んでくれたのです。
これが大当たりでし た。
もともと彼らはマネジメントの教育を受けてい る。
それを日本に研修に出して、ヤマトのノウハウ を叩き込んだのですが、コンビニもネットワークビ ジネスですから、実に飲み込みが早い。
彼らを各地 の店長として投入することで、一気に拠点網を拡大 することができました」 ――「宅急便」は予想以上に早く台湾人の生活に浸 透しているようですが、通販や百貨店などのB to C荷物は取り込めているのですか。
「カタログ通販は台湾では普及自体が、まだこれか らですね。
一方、百貨店はさすがに当社の展開をウ ォッチしてくれていたようで、三越百貨店さんが一 緒にやりましょうと言って下さいました。
五月から 三越さんが台湾で展開している全六店の宅配を当社 が請け負っています。
また高島屋さんが統一企業と 提携して台北に建設している大規模店も当社が請け 負うことになるはずです」 ――ライバルとしては日通系の台湾宅配通、西濃と 組んだ大栄貨運などがありますが。
「確かに日通さんや西濃さんも宅配をやっていらっ しゃるが、マーケットが違う。
競合しているという 意識はありません。
当社はあくまでも新しいマーケ ットを作ろうとしている」 「既に日本の宅配市場で勝負がついているように、 台湾も最終的には日本市場と同じ結果になると思い ます。
何よりドライバーの営業力が違う。
その意味 ではライバルはむしろ佐川系の新竹貨運です。
サー ビスというものをよく理解している。
視線が顧客に ピタリと合っている。
当社とはモデルは違いますが、 相当なものだと思います」 「台湾市場も日本と同じ結果になる」 統一速達 川田博 董事総経理(ヤマト運輸) SEPTEMBER 2002 14 スタートさせるという冒険に出た。
蓋を開けてみれば、予想以上にクール便に対す るニーズは強かった。
今年六月に統一速達は約七 〇万個の荷物を扱っている。
そのうちクール便が 一四万個弱、約一九%を占めている。
日本のヤマ トのクール便の構成比が約一〇%だから、クール 便に対して台湾には日本の倍のニーズがあったこ とになる。
統一速達と台湾宅配通の取扱規模は今のところ きっ抗している。
昨年の実績はいずれも三五〇万 個。
計画の二倍近い数字を残している。
今期上半 期は月七〇万個ペースで推移した模様だ。
このま ま増加傾向が続けば、両社合わせて今期は一六〇 〇万〜一八〇〇万個程度に市場規模が膨らむこと が予測される。
台湾宅配通の採算分岐点は月一〇 〇万個程度とされる。
来期中にも単月黒字を達成 することが見込まれている。
統一速達はクール便 の投資がかさむ分だけ、黒字転換のハードルは高 いが、既にメドは立った。
売り上げベースで見れば、両社ともまだ数十億円規模に過ぎないが、台 湾の物流市場に宅配専業者という新たな業態を確 立したとは言えるだろう。
一方、ヤマト、日通との提携に失敗した国内最 大手の大栄貨運もその後、西濃運輸と技術提携を 結び、「カンガルー」ブランドを掲げて宅配事業を 開始している。
しかし、既にコンビニの取扱店は 統一速達と台湾宅配通に押さえられており、宅配 市場では苦しい展開を強いられているようだ。
本 業の路線業も奮わない。
最近では台湾企業の中国 シフトに合わせて、大陸ビジネスを積極化させて いるが、国内市場に関しては低迷が続いている。
そこに追い込みをかけているのが、これまで大 ――台湾宅配通は台湾で最初に宅配便を開始したわ けですが、当初は何に苦労しましたか。
「料金設定や輸送日数などの商品設計ですね。
何し ろ前例がないので、白紙のところから始めるしかな かった。
結局、価格は郵便局の料金と地元のエクス プレス業者の料金を参考にしました。
エクスプレス 業者というのは地域限定の特急便でバイクや小型車 で運営しています。
ほとんどが一〇台規模の中小零 細業者ですので極めて限定されたエリアで混載もし ない」 ――既存の路線業の価格水準は考えなかった。
「そこは違うマーケットという判断です。
C to Cをカ バーすることが目標ですから。
ただし、台湾の消費 者の生活に宅配便という全く新しい商品が定着する までの当初の一〜二年は、規模を確保するためB to Cを狙うという戦略です」 ――ドライバーはどうやって確保したのですか。
「新聞広告やインターネットで一般募集をかけて全て 新規採用しました。
セールスの経験がある人を採る ようにしています。
中にはドライバー経験者もいま すが、経験年数はせいぜい二〜三年です。
それ以上 になると頭を切り換えてもらうのが難しい」 ――現状の取 扱個数は? 「月間で七〇 万〜八〇万個 に達していま す。
昨年は年 間で三五〇万 個でした。
こ のペースで行 くと来年の上 半期には月間一〇〇万個に達しそうです。
現在の長 期計画では来年の下半期で単月黒字。
二〇〇四年度 に累積黒字を目指しています。
今のところ計画通り に来ています」 ――クール便には手をつけていませんが。
「一部の顧客から要望があるので、限定的に実施す ることは考えています。
しかし、日本のようにネット ワーク展開することは当面は計画していません。
ま だ発表できないのですが、当社はクール便とは全く 別の切り口で今、『隠し球』を準備しています。
近く 公表できると思います」 ――もともと日通は海外事業の長い歴史を持ってい ますが、今回のような進出の形は珍しいのでは。
「その通りです。
海外でロイヤリティ・ビジネスを 手がけるのは初めてです。
日本以外のドメスティッ クの物流に本格的にタッチすること自体、初めてと いっていい。
しかし、世界中どこにいっても宅配便 のように生活者が便利になるビジネスには必ずニー ズがあるはずです。
日本の宅配便が他の国で通用し ても全く不思議はない。
台湾が上手くいけば、今後 はアジアの他の地域に宅配の技術を移転していく道 も開けます」 「その意味では台湾は最適な市場だと思います。
限 りなく日本に近い国柄ですから。
しかも台湾は面積 的には九州と同じぐらいですが、人口密度は倍あり ます。
宅配事業にとっては、非常にやりやすい市場 といえます」 ――今後の台湾の宅配マーケットの規模をどう見積 もりますか。
「最新の予想では二〇〇六年に一億六〇〇〇万個 と弾いています。
そのうち二〇%のシェアを確保す るのが当社の目標です」 「台湾市場はアジア展開の試金石」 台湾宅配通 萩田太郎 執行副総経理(日本通運) 15 SEPTEMBER 2002 栄貨運の陰で万年二位に甘んじていた新竹貨運だ。
同社は日本統治時代の一九三八年に旧・日本軍が 現地に設立した貨物運送会社を前進とする老舗の 陸運業者で、現在のオーナーの仰徳グループは士 林電機や国賓飯店など現地の有力企業を傘下に抱 える台湾有数の財閥として知られる。
同グループ の若き当主・許育瑞氏が現在、新竹貨運の総経理 も務めている。
佐川式経営で急成長 二〇〇〇年六月、新竹貨運は佐川急便との業務 提携に調印した。
もちろん宅配便事業が念頭には あるものの、既に業界大手の座にある新竹貨運に とっては、単なる新商品の開発よりむしろ日本の 有力物流業者のノウハウを導入することで、経営 の近代化を図ることのほうが大きな意味を持って いた。
実際、日本の物流マンの目で見ると、当時 の新竹貨運には経営上の課題が山積していた。
提携を受け新竹貨運の副総経理として現地に派 遣された山本賢司執行役員国際事業部部長は「荷 物は住所を箱に殴り書きしたようなものばかりで、 まともなトレース(貨物追跡)などできない状態。
ドライバーもいわゆる『運ちゃん』扱いで挨拶も ロクにしない。
頭を下げるという習慣自体がなか った」と当時を振り返る。
そこに佐川は日本の宅配便のノウハウと、独自 のセールスドライバー制を持ち込んだ。
情報シス テムを整備して、日本と同様のバーコード付き送 り状を導入。
ドライバーのユニフォームもお馴染 みの横縞のシャツで統一し、顧客との接し方を一 から叩き込んだ。
同時にドライバー各人の集荷実 績を翌月の給与に反映させる成果主義賃金を導入。
社内の意識改革を促した。
こうして再教育を施したセールスドライバーに、 それまで同社が手を付けずにいた中小の法人顧客 を回らせた。
大口荷主ばかりを狙う営業戦略を改 め、少量の荷物を薄く広く集める作戦に出たわけ だ。
新竹貨運のドライバーが一日に集荷に回る件 数は七〜八カ所だった。
それを一気に二〇カ所程 度にまで増やした。
結果はすぐに目に見える形で表れた。
それまで 同社の月間取扱個数は平均三八〇万個だった。
そ れが提携翌年の二〇〇一年には四三〇万個。
今年 上半期には五〇〇万個まで拡大した。
「その大部分 がこれまで郵便局に流れていた荷物だった。
面白 いように荷物がとれた」と山本副総経理はいう。
収入面でも二〇〇〇年には月間平均約三〇万台 湾ドル(一〇億五〇〇〇万円)で、最大手の大栄 貨運に二割近くの差を付けられていたものが、二 〇〇一年には、ほぼきっ抗。
今期は逆転した模様 だ。
両社に業界三位の中連貨運を含めた大手三社 のうち、新竹貨運だけがここ数年、増収基調を維 特別レポート台湾宅配市場 日系企業 現地企業 商品名 サービス 開始 主要株主 拠点数 車両台数 社員数 取扱店 取扱個数 貨物内訳 (本誌推計) 佐川急便 ヤマト運輸 日本通運 新竹貨運 新竹貨運 2000年 6月(提携) 仰徳グループ 232カ所 2000台 3600人 ― 月間500万個 BtoB 90% BtoC 10% ― 統一速達 宅急便 2000年 10月6日 統一超商 45カ所 616台 1516人 8163店 月間70万個 BtoB 33% BtoC 33% CtoC 33% 台湾宅配通 便利CAN 2000年 8月1日 東元電機、 東源物流台湾 伊藤忠国際 34カ所 450台 2000人 1万4000店 月間70万個 BtoB 15% BtoC 65% CtoC 20% 持している。
荷物自体も変わっ てきた。
従来は通常 の宅配便の規格に合 わない、いわゆる 「ゲテモノ」がかなり の割合を占めていた。
それが現在は七割以 上を規格内貨物が占 めるようになった。
今年七月には中核拠 点の台中支店に同社初、台湾最大となる大型の高 速自動仕分け機を導入した。
九月にはフル稼働し、 一日七万個を処理することになるという。
同じ路線業に区分されていても従来型の路線事 業と宅配事業では、ドライバーに求められる役割、 必要なネットワーク、そして収益構造など全く異 なっている。
過去の路線業のビジネスモデルを改 め、宅配業として生まれ変わること。
新竹貨運に とっては、それが「近代化」の意味だった。
新竹貨運の許総経理は「今後は他の拠点にも順 次、自動仕分け機の導入を進めていく計画だ。
当 社は佐川急便の技術指導の下、『e化』というコン セプトで運送事業の近代化を図ってきた。
既に大 きな成果が出ている。
今後も佐川とは、より強力 な協力関係を作っていきたい」という。
日本に宅配便が誕生してから既に二六年が経過 している。
その間に物流業界では、かつては隆盛 を極めた大手路線業者が衰退し、宅配専業のヤマ ト・佐川が「二強時代」を築くという変化が起こ っている。
日本が四半世紀をかけて体験したその 歴史を、台湾の物流業界はわずか数年で消化しよ 新竹貨運は7月、台湾最大の自動仕分け機を導入した SEPTEMBER 2002 16 ――これまで佐川急便の海外展開は、ライバルのヤ マトや日通に比べて後手に回っていたように見えま す。
それがここ数年、急に動き始めた 「当社の海外事業は両社を睨んで展開してきたわけ ではありません。
これまで当社は国内の荷主企業の アジア進出に合わせて現地法人を設立してきた」 ――上海や台湾の宅配事業はそうではないでしょう。
「宅配便の場合はライセンスビジネスです。
当社が自 分で商売をしているわけではない。
そこで大きく儲 けようという考えはありません。
当社のマークの入 ったトラックが町を走れば、それだけでブランドが浸 透する。
当社としてはブランドの認知度が高まれば いいという判断です。
少なくとも、これまではそうし たビジネスでした」 「もともと中国も台湾も外資の一〇〇%出資は認め られていないため、他に方法もなかった。
ただし今 後、規制が緩和されて外資の参入が許されるように なれば、台湾の場合は投資もしていきたい。
先方(新 竹貨運)も、そのことは了承してくれています」 ――台湾と中国を比べると、台湾のほうが宅配便の ビジネスチャンスがある? 「そうですね。
インフラも中国に比べて整っている」 ――台湾のマ ー ケ ッ ト を 、 どれくらいと 弾いています か。
「現在のB to Bの小口配送 市場が五〇〇 億 円 く ら い 。
いま台湾のビ ジネスは中国大陸にどんどんシフトしていますので、 国内だけを見ればそれで頭打ちだと思います。
ただ し、この数字には郵便の数字は入っていません。
宅 配便については今後も伸びそうだとみています。
そ してこれからは大陸から消費地である台湾に向けて の物流が増えていくでしょう」 「実は今後は当社の中国展開に新竹貨運をかまして いきたいと考えています。
試しに中国の深 に台湾 人の営業マンを派遣してみたところ、驚くほど台湾 系の荷主企業の反応が良かった。
もともと新竹は台 湾にネットワークを持っている。
大陸の荷物を台湾 で北米と結ぶ。
台湾系企業は中国で圧倒的に強い。
そこを当社は狙っています」 ――わざわざ台湾を経由して中国市場に切り込むと いうことですか。
「日本では一〇年ほど前にも一度、中国進出ブーム がおきましたが、その後、ブームが沈静化すると日 系企業は一気に引いてしまった。
唯一現地に残った のが台湾系企業です。
やはり台湾人は同じ中華圏で あるため、中国人との駆け引きが我々よりもずっと うまい。
中国ビジネスでは良いパートナーになると 期待しています」 ――UPSやフェデックスは世界中に自社拠点を構 えて宅配ビジネスを展開しています。
それとはスタン スが異なりますね。
「彼らは世界中に拠点を置かないと米国で荷物がと れない。
そのため海外現地法人は赤字でも構わない というスタンスだと思います。
基本を世界戦略に置 いてビジネスを展開している。
それに対して国内ネ ットワークに軸足を置く当社が同じように海外でも 展開しようとすれば、とてつもない投資が必要です。
現実的ではありません」 うとしている。
そこには日系宅配業者が大きく関与している。
し かし現在、台湾は外資による路線業への参入を一 切、認めていない。
実態はともあれ、日系各社は 自らの資本で事業展開しているわけではない。
技 術指導料やライセンスフィーを現地企業から収受 しているに過ぎない。
いくら事業が成功しても、そ の金額は日系各社の本体収益に影響を与えるほど の規模ではない。
果たして日系各社にとって台湾ビジネスのゴー ルはどこにあるのか。
ヤマトでは「実はその点が まだ社内で十分に議論されていない。
外部からの 依頼に対して、受動的に対応しているのが現状だ」 (広報部)という。
一方、日通の勝島室長は「台湾 ビジネスの狙いは現状ではライセンスフィー、そ してブランド戦略だ。
ただし今後、外資の参入が 認められるようになれば、直接投資という選択肢 も出てくる」という。
実際、日系三社はいずれも提携先現地企業との間で一〇%程度のストックオプション契約を取り 付けているようだ。
今後、外資規制が外れた段階 でその権利を行使することになる。
昨年十一月、 台湾のWTO(世界貿易機関)の加盟が決定した ことで、その時期はかなり近づいたと見ていいだ ろう。
さらに佐川の山本執行役員は「新竹貨運は台湾 国内だけでなく、中国本土のビジネスでも活躍で きるはず。
当社にとって、台湾進出の落としどこ ろは実は中国ビジネスにある」と明かす。
海運や 航空貨物とは全く違った切り口で、日本の宅配業 の国際化が始まっている。
(大矢昌浩) 「台湾を中国ビジネスに活かす」 佐川急便 山本賢司 執行役員国際事業部部長(新竹貨運 副総経理) 特別レポート台湾宅配市場

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