ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
ケース
宝酒造――拠点政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 52 大塚製薬と共同配送 清酒「松竹梅」や焼酎「純」といったブラ ンドで知られる宝酒造は、「ポカリスエット」 などを展開する大塚製薬と共同配送を始める。
今年一〇月から宝が千葉地区で大塚の製品を、 大塚が四国地区で宝の製品を、それぞれ得意 先まで配送する。
当面は両エリア限定となる が、成果を見ながら対象地区を順次拡大して いくことも検討しているという。
物流センターを共同利用し、さらに届け先 が共通する製品を一括で配送することで、物 流コストを削減するのが狙いだ。
実際、今回 の取り組みを通じて両社は年間に五%程度の 物流コスト削減を見込んでいる。
一方、得意 先にとっては二社の製品が一緒に配送される ため荷受け業務を簡素化できるというメリッ トがある。
共配センターの運営と配送業務はそれぞれ の物流子会社、タカラ物流システムと大塚倉 庫が担当する。
タカラ物流システムの大谷將 夫社長は「宝製品は冬場に、大塚製品は夏場 に出荷量のピークを迎える。
季節波動の異な る製品を共同で管理することで物流現場の作 業の平準化が可能になる。
施設や配送車両の 稼働率が上がれば、浮いたコストをそれぞれ の親会社に還元できる」と説明する。
宝酒造にとって他の飲料・酒類メーカーと の共配は今回が初めてではない。
既に全国各 地で同業種共配を立ち上げている。
二〇〇〇 物流インフラの“自前主義”を改め 共配を活用した新体制に移行 2003年の酒販自由化で販売チャネルが多様 化する。
もはや自社単独で全国をカバーする 物流体制を構築するのは得策ではないと判断 した。
物量の少ない地方の配送は同業他社に 外注化することで、無駄な投資を抑えようと している。
宝酒造 ――拠点政策 かつての酒類業界ではライバル企業への情報漏えいを恐れ、共同配送に参画するメーカ ーは少なかった。
宝酒造もそのうちの一社だ った。
しかし、同社は従来の方針を改め、今 ではむしろ?積極派〞として認識されるよう になっている。
「酒類業界ではこれまで卸主導の共同配送が 主流だった。
しかし、力関係上やむを得ず共 同配送に参加しているメーカーが大半を占め ていたと聞いている。
今後は卸主導型に代わ ってメーカー主導の共同配送が徐々に拡がっ ていくだろう。
当社もコスト削減のため、共 同配送に積極的に取り組んでいくつもりだ」 と宝酒造の森圭助SCM企画部物流企画チー ムマネジャーは説明する。
垂直統合から方向転換 宝酒造のサプライチェーン戦略はもともと、 ビールメーカーと同様、自社で全国に専用の 配送網を張り巡らせ、流通チャネルを垂直統 合するというものだった。
具体的には「全国 十一工場」→「全国二五カ所の在庫型配送デ ポ」→「得意先」という物流体制を敷いてい た。
配送デポは清酒、焼酎、調味料など製品 カテゴリー別に用意。
得意先からの注文もカ テゴリーごとに受けていた。
仮に同じ届け先 であっても、カテゴリーが異なる場合はそれ ぞれ別の配送デポから製品を供給してきた。
しかし、九〇年代に入り販売チャネルが一 般酒販店から量販店やコンビニエンスストア 年には北海道地区でサッポロビールと、さら に翌年には東北地区と関東地区で清酒メーカ ー六社とスタートさせた。
北海道ではサッポ ロに配送を委託、逆に東北・関東では酒類メ ーカーに代わって、宝酒造が配送業務を請け 負っている。
53 SEPTEMBER 2002 などの組織小売業に大きくシフト。
多頻度小 ロットでの納品や複数製品の一括配送を求め られるようになると、徐々に従来の体制の非 効率さが目立つようになってきた。
組織小売業の物流ニーズに対応するために 拠点間の横持ち輸送が発生。
それによって配 送トラックの使用台数が増え物流コストが上 昇した。
加えて、「多頻度納品を要求されたた め、営業マンが欠品を恐れて在庫の確保に走 り、配送デポの在庫が一六日分にまで膨れ上 がってしまった」(森マネージャー)という。
さらに、宝酒造にとって二〇〇三年秋に酒 販免許が自由化されることは、物流面ではマ イナス要素になる。
コンビニが全店舗で酒類 を扱うことになるのは必至で、ドラッグスト アや食品スーパーなどの組織小売業も、新た に販売チャネルに加わる。
売り先が拡大する という意味で営業面ではプラスだが、物流ニ ーズはより多様化する。
それによって物流の 現場が混乱することも予想された。
「売り先が増えればその分だけ末端の配送デ ポを拡充しなければならない。
しかし、配送 デポの数を増やすと、今度は在庫が膨れ上が ってしまう。
いずれにしても既存の物流体制 は限界を迎えていた」と森マネージャーは説 明する。
そこで同社は二〇〇三年をにらんだ新たな 物流ビジョンを打ち出した。
東西の主力工場 に隣接するかたちで保管・仕分け機能を持っ た大型物流センターを設置。
全国の工場から 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 配送デポ DC 工場 工場 工場 配送デポ DC 配送デポ TC 配送デポ TC 配送デポ TC 東日本 物流センター 工場 配送デポ TC 東日本 ロジスティクス センター 工場 西日本 ロジスティクス センター 西日本 物流センター 得意先 得意先 《〜1995年》 《1995年〜2001年》 《完成型》 全国12カ所 (フルライン) 物量が少ない地区の TCは外注化 全国25カ所 (アイテム別) 宝酒造の物流体制の変遷 ーを建設できる土地が残っていなかったのである。
例えば、東日本地域を統轄する物流センタ ーの設置が見込まれていた松戸工場。
この工 場は十二万五四〇〇平方メートルの土地を保 有しているが、一九六四年の進出後、生産施 設の増強を続けてきた結果、新たに物流セン ターを建てられるような遊休地がなくなって しまっていた。
こうした事情もあり、まずは物流改革の第 一ステップとして、錯綜していた物流のベク トルを整理することにした。
九五年に東西二 カ所にダム倉庫を用意。
サプライチェーンを 「工場」→「東西二カ所の物流センター」→ 「全国二五カ所の在庫型配送デポ」→「得意 先」というかたちに改め、在庫の集約を図っ た。
翌年からは配送デポの統廃合に乗り出した。
前述した通り、宝酒造ではもともと製品カテ ゴリー別に配送デポを用意していた。
これを フルライン型の配送デポへと切り替えていっ た。
その目的は多頻度納品や一括配送といっ た物流ニーズに対応すること。
清酒用と焼酎 用の二つの配送デポを一カ所に統合するとい った再編を全国各地で行い、九九年までに二 五カ所あった配送デポを一四カ所にまで減ら した。
これら九五年以降の?暫定的〞な物流改革 で、配送デポの在庫を一六日分から一〇日分 にまで削減することができた。
しかし、その 結果に物流部隊は決して満 足していなかった。
ダム倉 庫は全国の工場からパレッ ト単位で送られてくる製品 を一時保管して、そのまま 配送デポに供給するという 機能しか担っていなかった からだ。
単なる一時保管用の倉庫 に一カ所当たり年間で五〜 六億円の賃貸料を支払うの は明らかに無駄だ。
一刻も 早くその機能を工場側に移 管させたい。
それが物流部門の本音だった。
し かし、工場内に物流センターを建設するスペ ースを確保するには生産設備の一部をスクラ ップする必要があった。
これに経営陣はなか なか首を縦に振ろうとはしなかった。
「ダム倉庫の設置で在庫の削減に成功した。
しかし実はもっと物流コストを削減できる方 法がある。
ただし、そのためには新たな投資 も発生する。
それでも二〇〇三年を迎える前 にきちんと物流体制を整備しておくべきだと 何度も経営陣に提案した」と森マネジャーは 述懐する。
ねばり強い交渉の末、経営陣からゴーサイ ンが出たのは二〇〇〇年だった。
その後、工 場の生産設備を一部スクラップして土地を捻 出。
そして、ようやく昨年一〇月、念願だっ た工場隣接型の「東日本ロジスティクスセン SEPTEMBER 2002 54 送られてくる製品在庫をそこに集約する。
末 端の配送デポはTC型(通過型センター)に 切り替える。
物流センターから供給する製品 を配送デポで小分けして得意先に配送する。
しかも配送デポは、物量を多い大都市圏は自 前で用意するが、物流の比較的少ない地方に ついては外注化する、というものだ(図参照)。
これまでの垂直統合を断念し、共同物流を 採り入れるサプライチェーンへと戦略を改め たのである。
冒頭の共同配送への取り組みも その一環だった。
「ビールメーカーくらい出荷量があれば、酒販 免許自由化後も垂直統合型の物流体制を維持 できるのかもしれない。
しかし、もともと清 酒メーカーの出荷ボリュームは小さいため、自 社で全国をカバーする配送網を整備しようと すると、どうしても効率の悪い地区が出てし まう。
流通の環境は目まぐるしく変わる。
そ うした動きに臨機応変に対応するためにも配 送デポのアウトソーシングを進めてリスクを 回避する必要があった」と森マネジャーは説 明する。
「工場に土地がない」 ただし、新たな構想を一気に具現化するこ とはできなかった。
工場隣接型の大型物流セ ンターの建設が最大のネックだった。
投資に 必要な資金の調達が問題になったわけではな い。
そもそも物流センター設置を予定してい た東西の主力工場の敷地に、大型物流センタ 昨年10月に稼働した東日本 ロジスティクスセンター ター」を、松戸工場の敷地内で稼働させるこ とができた。
二八億円投じた新センター 東日本ロジスティクスセンターは敷地面積 一万七八〇〇平方メートルの三階建て。
保管 能力は自動倉庫部分で一万五八〇〇パレット。
平置倉庫部分で七二〇〇パレットに達する。
投資総額は約二八億円。
コンベア、無人搬送 車、層別ピッキング装置、ロボットピッキン グ装置など最新鋭のマテハン機器が揃ってお り、製品の入出荷作業はほぼ自動的に処理さ れる仕組みになっている。
ラックしかなかっ た従来のダム倉庫とは比較にならないくらい 機能が充実している。
全国の工場から同センターに製品が入荷さ れる。
製品を載せたパレットにバーコードラ ベルを貼付して入荷検品。
出荷頻度が特に高 い「超A製品」は一階、二階部分の平置きス ペースに保管する。
フォークマンがラベルを 読み取って、指示されたロケーションまで製 品を運ぶ。
そのほかのA、B、C製品は自動倉庫にそ れぞれ格納する。
フォークマンが自動倉庫へ の搬送ラインにパレットを移動。
搬送ライン に備え付けているバーコードリーダーが自動 的にラベルを読み取り、ロケーションを確定。
無人有軌道台車(STV)などを経由して庫 内に格納する。
次に出荷作業。
平置きスペースの「超A製 品」はパレット単位で出荷されるため、フォ ークでピッキング後、そのまま配送トラック に積み込む。
フォークマンはフォークリフト の運転席に備え付けてある端末の画面を見な がら、指示されたロケーションに移動してピ ッキングすればいい。
他の製品はパレット単位の出荷の場合、自 動倉庫から直接取り出す。
ケース単位でもあ る程度ロットがまとまっている場合には層別 ピッキングシステムを使用する。
三〜四層に パレタイズされた製品の一層もしくは二層部 分だけをピッキングして、隣に用意されてい る別製品のパレットに積み替えて「混載パレ ット」をつくるシステムだ。
混載パレットは 搬送ラインを通じて一階部分の出荷スペース に送られる。
一〜二ケースという単位で出荷される製品 は、ケースピッキング専用ラインで処理する。
作業員は台車を使ってラックから摘み取り式 でピッキング。
それをパレットに積み付けて いく(五六ページ写真参照)。
営業倉庫免許を取得 東日本ロジスティクスセンターが稼働した ことで、配送デポのTC化も徐々に進んでい る。
センター稼働前から実証実験的にTC化 に踏み切っていた北陸地区に続き、関東地区 の配送デポの切り替え作業も今年からスター トさせた。
依然としてB、C製品を在庫して いるデポも一部残っているものの、「従来に比 べデポの規模が小さくなったことで倉庫使用 料が減るなどの成果が出始めている」(森マネ ージャー)という。
55 SEPTEMBER 2002 EXE TECHNOLOGIES 〒279-0012 千葉県浦安市入船1-5-2 明治生命新浦安ビル ロジスティクス・システムこそSCM成功の鍵に他ならない! 企業の収益向上 、売上の拡大に 直接寄与する経営合理化ツール 全世界500社以上に実績を持つベストプラクティスを導入する あらゆる業界で求められているロジスティクス・システムのニーズに適応するエクシード・ソリューション バリューチェーンを構築する ビジビリティー可視性 ベロシティースピード バリュー・アッドー付加価値 これら3つのVを提供することによって、顧客の価 値を創出し、バリューチェーンを経営パフォーマン スの形で、より高いROIを実現。
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SCEのグローバルリーダー http://www.exe.co.jp/ 3つのドライバー SEPTEMBER 2002 56 当初は物流体制が変わることで現場作業が 混乱することも懸念されていた。
しかし、こ れまで大きなトラブルは特に発生していない。
「センターが稼働して以来、誤配ゼロを継続 している」と石田真一東日本ロジスティクス センター長は自信を深めている。
目下の課題は同センターを起点とした共同配送の提携先を見つけることだ。
宝酒造はこ のセンターで営業倉庫免許を取得しているほ か、外部企業製品向けの保管スペースを確保。
また宝グループ用とは別に、外販用の物流情 報システムも用意している。
自社専用センタ ーではなく、酒類や飲料、さらには加工食品 メーカーが共同で利用する汎用型センターと して機能させることを狙っている。
既に清酒メーカー一社が首都圏向けの配送 拠点として同センターを活用している。
冒頭 で説明した通り、今年一〇月からは大塚製薬 も入居する。
しかし、新センターは従来のダ ム倉庫の一・五倍の収容能力があり、稼働率 を引き上げるためには提携先の数がまだまだ 足りないという。
「もはや相手に情報が漏れてしまうとかゴチ ャゴチャ言っても仕方がない。
メーカーは店 頭で競争をすればいい。
そういう考え方が酒 類業界にも段々と浸透してきた。
二〇〇三年 を目前に控え、酒類メーカー各社が共配を前 向きに検討するようになってきたことは当社 にとって追い風だ」と森マネージャー。
こう した流れを受けて、同社では未だ手つかずの 西日本地区についても、東日本と同じ機能を 備えた物流センターの建設を計画している。
末端の配送拠点ならともかく、サプライチ ェーンの核となる工場隣接型の物流センター をライバル企業に開放するというケースは珍 しい。
無駄な物流センターの乱立を防ぐとい う意味でも非常に効果的だ。
それだけに宝酒 造が現在進めている物流改革は各方面から注 目を浴びている。
「当社の物流拠点が酒類業 界の物流プラットフォームという位置付けに なって欲しい」と森マネージャーは期待して いる。
(刈屋大輔) ?入荷スペース 松戸工場および他工場から入荷 される製品のうち、出荷頻度の 多い超A製品は平置倉庫スペー スに、ABC製品は自動倉庫に 格納される 東日本ロジスティクスセンター内の様子 ?自動倉庫 自動倉庫の保管能力はビールパ レットで15,800枚分に達する ?MOS(モニタリングオペレー ションシステム) 入荷〜出荷までの搬送ラインを コンピュータで制御。
搬送ライ ンのどの部分で故障が発生した かが画面に表示されるため、メ ンテナンスに時間が掛からない ?ケースピッキング場 ケース単位で出荷される製品 は組織小売業の一括物流セン ター向けが大半を占めている ?層別ピッキングシステム 3〜4層でパレタイズされた製品 の1層部分だけをピッキングして、 隣のパレットに積み替えるための システム ?セットアップ場 製品を贈答品用として流通加 工するためのスペース。
写真 は清酒や焼酎の一升瓶に包装 紙を巻き付ける装置 ?出荷バース フォークマンに積み込み先を指 示する電光掲示板が用意されて いる ?トラック待機スペース 積み込み作業を終えたトラック は各地の配送デポや得意先の 物流センターに向け出発する

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