ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
ケース
ヤマト運輸――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 56 特別積み合わせ便(路線便)の幹線輸送ト ラックの荷積み方式は、大きく分けて二通り ある。
一つは荷台に直接荷物を積む「直(じ か)積み」(別名・ベタ積み)と呼ばれる方 法。
荷台に隙間なく荷物を詰め込めるため、 積載率を高めるには効果的だ。
ただし、荷物 を一個ずつ積み下ろさなければならないなど、 荷役作業面での難点がある。
そして、もう一つがロールボックスパレッ ト、俗に言うカゴ車を使う方式だ。
ロールボ ックスパレットが荷台内を占拠する 分、「直 積み」に比べ積載効率は劣る。
しかし、積み 下ろし作業が迅速に行えるというメリットが ある。
どちらも一長一短あるのだが、大半の業者が直積み方式を採用している。
これに対して、ヤマト運輸は七六年に「宅 急便」サービスを開始して以来、ロールボッ クスパレットを使った輸配送を続けている。
全国翌日配達を売り物にする「宅急便」サー ビスの輸配送システムでは、ロールボックス パレットを使ったスピーディーな積み下ろし 作業や、方面別仕分けが欠かせないからだ。
加えて、頑丈な箱(ロールボックスパレット) で預かった荷物を囲 うことで、破損などの事 故を防ぐ効果もあるという。
カゴ車の偏在が悩み 年間に九億個もの「宅急便」を扱うヤマト では、物量が平月の二・五倍以上に膨れ上が 折り畳み式のカゴ車を開発 年間16億円のコスト削減へ 「宅急便」で使うロールボックスパレットは重 さ約110キロにも及ぶ。
その組み立て・分解作業 は、社内で「つらい仕事」の代名詞になるほどの 重労働だった。
新たに開発したロールボックスパ レットは軽く、しかも折り畳みが可能。
作業時間 の短縮のほか、回送費の削減などに寄与している。
ヤマト運輸 ――現場改善 前蓋外し、サイドバー外し、中間棚下ろし など十一工程にも及ぶ分解作業は一本当たり 平均約七分、同じく組み立て作業も平均約七 分を要する。
作業にあたるのは若くて力のあ る新入社員。
ヤマト社内でこの作業は新入社員の誰もが経験する?登竜門〞であった。
「私も新人時代に経験したが、分解、組み 立て作業は汗水垂らして行うつらい仕事だっ た。
社内では『ロールボックスパレットは荷 物にやさしいが、社員には冷たい』と囁かれ ていた」とシステム改善本部作業システム部 の犬竹孝徳氏は説 明する。
組み立て作業が一分以内に そこでヤマトは新たに折り畳み式のロール ボックスパレットを開発した。
新型は樹脂を 使った重さ約九〇キロの軽量化タイプで、短 時間で楽に分解(折り畳み)、組み立てでき る。
折り畳み作業は非常にシンプルだ。
前蓋を そのためロールボックスパレットの回送という作業が発生する。
余剰エリアから不足エ リアへロールボックスパレットを戻す作業で、 その数は全国で年間延べ約一四〇万本に達す る(図1参照)。
特に慢性的なロールボック スパレット不足に陥っている関東・北信越エ リアでは、年間に約七七万本を回収していた。
一円にもならないロールボックスパレットの 回送に年間に約一五億円を費やしている計算 だった。
もちろん、これまでも回送に なるべくコストを掛けないよう 様々な工夫を重ねてきた。
例 えば、一〇トントラックに空の ロールボックスパレットをその まま積めば、一四本しか載ら ないが、それを四本 一セット (写真1)になるように、わざ わざ分解して計五六本分(四× 一四)を一度に輸送するとい う処理をしていた。
しかし、この際に必要となる 分解作業、さらには回収後の 組み立て作業は社員から不評 だった。
ロールボックスパレッ トの重さは一本約一一〇キロ。
これを分解したり、組み立てる 作業は重労働で、しかも危険 を伴うからだ。
57 JULY 2001 る年末などの繁忙期に合わせて、現在約五〇 万本のロールボックスパレットを用意してい る。
夥しい数のロールボックスパレットが日々、 全国の拠点間を行き来することで、荷物の発 着格差によってどうしてもロールボックスパ レットの偏在が生じてしまう。
例えば、東京、 名古屋、大阪といった大都市圏の拠点ではロ ールボックスパレットが不足がちで、逆に中 国・四国地区や九州地区では余剰気味になる。
図1 ロールボックスパレットの流れ 北海道・東北エリア 中国・四国エリア 九州エリア 関東・北信越エリア 主なボックス不足エリア 主なボックス余剰エリア 北海道・東北 関東・北信越 中部・関西 中国・四国 九州・沖縄 不足の為に回収した 空ボックス数(本) 317,286 773,697 180,453 59,836 75,458 合 計 1,406,730 ロールボックスパレットの回送実績(2000年度) 写真1 従来型は4本1セットで回送する JULY 2001 58 外し、それを左側面に引っ掛ける作業から始 まり、図2の手順に従って進めていく。
最後 に折り畳んだ部分をストッパーでロックして 作業は終了。
この間およそ四五秒。
一方、組 み立て作業は折り畳むよりもさらに簡単でお よそ三八秒で済む。
従来は分解、組み立てと もに約七分掛かっていたわけだから、作業時 間は六分以上短縮されたことになる。
一分以内で折り畳みが可能なロールボック スパレットの完成は、現場の社員にとって画 期的な出来事だっ た。
この朗報に半信半疑だ った、ある役員は犬竹氏のデモンストレーシ ョンに目を丸くして驚いていたという。
このほかにも、新型ロールボックスパレッ トには優れた点がいくつかある。
その一つが 底面部分を?ハ〞の字型に設計した点だ。
こ れによって、床板を下支えし、強度を保って いるほか、次ページ図3のように何本も重ね て収納できるようになった。
ロールボックス パレットを回送する際、従来型は一〇トント ラックに五六本しか積めなかったが、新型で は六六本まで積載が可能だ。
キャスター部分に装着したフォークバンパ ーも新たな機能の一つだ。
ヤマトではロール ボックスパレットをトラックに積み込む際に 発生するフォークリフトの爪でキャスターを 壊してしまう事故が少なくなかった。
キャス ターの修理代は年間約三〇〇〇万円。
バンパ ーはキャスター破損事故を防ぐと同時に、「フ ォークマンが適切な幅で爪を差し込むための 目印としての役割も果たしている」(犬竹氏)。
上の写真は新型ロールボックスパレットで 使用されているキャスターである。
一見、何 の変哲もないキャスターだが、これにはラジア ルベアリングと呼ばれる消音機能が施されて おり、搬送時に発生する「キーキー」という 軋(きし)み音が出にくい構造になっている。
さらに、車輪の幅を三二ミリから四〇ミリ に拡大。
側溝での脱輪事故を防ぐとともに、 ロールボックスパレット全体の安定性を高め ている。
「重心が保てない」 実はヤマトでは過去にも何度か折り畳み式 ロールボックスパレットの開発に挑戦してい 新型ロールボックスパレットのキャ スター部分 図2 新型ロースボックスの折り畳み方式 ?前蓋を外し、左側面に掛ける ?サイドバーを外し、側面 に固定させる ?中間棚の底にあるツマミ を中央に寄せて中間棚フ ックを外す ?パレットの手前にあるレ バーを引き、パレットが 背面に固定させるまでし っかりと引き上げる ?右側面から 先に折り畳 む ?左側面を折 り畳む ?折り畳み時に側面が開かない ように、前蓋の締め金具と背 面にある折り畳みストッパー とをしっかりロックする 59 JULY 2001 る。
この案件が最初に持ち上がったのは宮内 宏二・前社長の時代。
現場改善の指揮を執る システム改善本部にとっての長年の懸案事項 だった。
開発を進めていく上で常に障害になってい たのは、折り畳んだ時にロールボックスパレ ット全体の重心が移動してバランスが保てず に転倒してしまう恐れがあるという構造上の 問題だった。
ヤマトが使用してきた旧来型のロールボッ クスパレットは高さ一八九・一センチ、縦横一一〇×一〇〇センチで、百貨店や量販店が 使う一般的なロールボックスパレットに比べ サイズが一回り以上大きい。
これはトラック の荷台に合ったサイズにすることで、積載効 率を高めるためだ。
ところが、容積確保のため大型化すると、 どうしてもロールボックスパレット自体が重 くなる。
折り畳んだパーツを後方部分に集め ると、その重みで倒れてしまうわけだ。
新型 ロールボックスパレットはこの問題も克服し ている。
折り畳んだ部分の重さを軽くし、な おかつ前方部分を重くして重心を保つことに 成功した。
折り畳んだ際にネックになると考え られて いたのは合板でできた床板の重さだった。
こ れを軽くすれば重心が保てるのだが、床板に は荷物を支えるためのある程度の強度が必要 なため、軽量化は実現不可能であるとされて きた。
しかし、従来の常識は樹脂製床板の登場で 覆された。
ヤマトが新型ロールボックスパレ ットで採用した樹脂製床板は合板製のそれに 比べ一三キロ軽い。
これによって、折り畳み 部分全体の重量を低く抑えている。
一方、前方部分の両前輪には重さ四・五キ ロのフォークバンパーが装着されており、こ れが?重石〞として働いていて、バランスを とっ ている。
「重心の問題が解決し安全性が 確認されたことで、折り畳み式大型ロールボ ックスパレットの実用化が一気に進んだ」と 犬竹氏は振り返る。
今年度中に一〇万本 既にヤマトでは新型ロールボックスパレット約三万本の導入を済ませている。
今年度中 には全量の五分の一に相当する一〇万本まで リプレースを進め、今後数年間ですべてを新 型に切り替える計画だ。
今回の新型ロールボックスパレット導入に よるコスト削減効果として、折り畳み、組み 立て作業時間の短縮で一四億二〇〇〇万円、 回送費用と倉庫料の削減で二億四〇〇〇万円 の計一六億六〇〇〇万円を見込んでいる。
「『宅急便』は完成度が高いと言われている が、現場レベルでの課題はまだまだ多い」と 犬竹氏。
社員 のこうしたコスト意識の高さが 同社の経営の安定性に少なからず寄与してい るのだろう。
(刈屋大輔) 作業システム部の犬竹孝徳氏 66本積載可能 新型ロールボックスパレット 56(14セット)本積載可能 従来型ロールボックスパレット ラッシングベルト ラッシングベルト 標準10t車:縦33本 × 横2列 = 66本 標準10t車:縦7セット × 横2列 = 14セット (縦4本 × 7セット × 横2列 = 56本) 図3 トラックへの積載方法

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