ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年10号
特集
郵政 VS 宅配業者 巨大ターミナルの現場を歩く

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2002 18 巨大ターミナルの現場を歩く 日本最大の郵便ターミナル、新東京郵便局では1900人の 従業員が1日2100万通の郵便物を処理している。
これに対し て、ヤマト運輸の北東京ベース店で扱う「メール便」はわず か11万通にすぎない。
その実力差は歴然としている。
しかし 現場でのオペレーションの生産性は、むしろ民間のほうに軍 配が上がる。
一日十一万個を処理 埼玉県戸田市――。
国道一七線号に程近い、荒川 の河川敷沿いの食品工場などが立ち並ぶ工業地域の 一角にヤマト運輸の北東京ベース店がある。
もともと、 この拠点は「宅急便」のターミナル拠点として機能し てきたが、今年五月に「クロネコメール便」用の自動 仕分け機を導入して以来、メール便の中継基地として の役割も果たすようになった。
全国から到着したメール便を管轄下の埼玉県内お よび東京都の一部地域の計四三営業所に店別・ドラ イバー別に仕分けして供給する作業、さらに四三営業 所で集められたメール便を全国約七〇カ所のベース店 に発送する作業を担っている。
現在、北東京ベース店 では一日平均で到着五万個、発送六万個のメール便 を処理しているという。
しかし、この数字には物足りなさを感じざるを得な い。
一時間に三万個という自動仕分け機の処理能力 を考えると、単純計算で機械の稼働時間は発着合わ せて四時間で済んでしまうからだ。
実際、北東京ベー ス店には午後三時頃に訪問したが、傘下の営業所か ら集まるメール便の全国に向けての発送作業が始まる 前ということもあって、機械は動いていなかった。
それでも「本番はこれから。
それまでは試運転期間 でいい。
来るべき時に備えて、仕分け機の使い方など 作業ノウハウをきちんと蓄積しておくことが先決だ」 と北東京ベース店の江谷均氏は余裕を見せている。
ヤマトがいう「本番」とは「メール便の新サービス 投入後」を意味している。
現在、同社はメール便に関 して、「三〇〇グラムまで一六〇円」、「六〇〇グラム まで二一〇円」、「一〇〇〇グラムまで三一〇円」とい う三タイプの料金体系を用意している。
これに加えて、 今年末をめどに既存のメール便よりもサイズが小さく、 なおかつ低料金の新商品を発売する方針を固めている。
ターゲットは郵便の独壇場にある封書。
その中でも特 にダイレクトメール(DM)の部分に絞っている。
現 段階では詳細は明らかになってないが、「一〇〇グラ ムまで一六〇円」「七五グラムまで一四〇円」という 定形外郵便物の現行料金を下回る料金体系を打ち出 すのは確実視されている。
メール便のセールスポイントは、?一個ごとに配達 完了情報を管理し、その情報を送り主にフィードバッ クできる、?一個の発送からでも集荷依頼が可能―― といった点だ。
郵便にはない付帯サービスを無償で提 供することで、顧客からの支持を集めてきた。
今後は それに「信書の定義」の絡みもあって控えてきたDM など小型荷物向けの料金体系が新たに加わる。
当然、 顧客の利便性はより一層高まる。
「新サービス投入後、ベース店での取扱個数が一気 に増えるのは間違いない。
そうなれば自動仕分け機の 稼働効率も上がってくる。
一台三億円という自動仕 分け機への投資も無駄ではなかったという話になるは ずだ」と江谷氏は強調する。
仕分け機四台で全体の四〇%をカバー メール便用の自動仕分け機は九九年四月に初めて 江東区有明の東京ベース店に設置された。
以来、首 都圏の主要ベース店を中心に導入が進められてきた。
現在、その数は三台(東京、新東京、北東京ベース 店)。
今年十一月にオープンする埼玉県新座市の新タ ーミナル拠点、埼京ベース店への導入も決定済みだ。
ヤマトが扱うメール便は首都圏発着が圧倒的に多い。
その首都圏に自動仕分け機が計四台導入されること で、クロネコメール便全体の約四〇%を機械で仕分け 第4部 特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 19 OCTOBER 2002 る体制が整うという。
今後は既に導入が済んでいるベース店への仕分け機 の増設、他ベース店への新規導入なども予定されてい る。
いずれも新サービス開始による取扱個数の拡大を 睨んだもので、これまで手作業が中心だった仕分け作 業を機械化・自動化して処理スピードの向上など作 業生産性を高めることを目的としている。
ただし、すべて機械に頼るのはではなく、コストや スピードの面で人手が適していると判断した場合には、 従来通り手作業で仕分けを行う。
無駄なマテハン投 資は極力避ける。
それがヤマトの現場運営の特徴で、 後述する郵便局とは対照的だ(囲み記事参照)。
実際、自動仕分け機には弱点も少なくない。
例えば、 封筒に絵や文字などの柄が多用されていると、自動仕 分け機のOCR(オプティカル・キャラクター・リーダ ー)のセンサーが絵や文字のほうに反応してしまい、肝 心の郵便番号や住所を読み取らないことがあるという。
もっとも、発送の場合、大口顧客から出されるメール便はロットがまとまった状態で順番に一括で処理す るため、あらかじめOCRのセンサーに読み取るべき 封筒の位置を認識させておけば、何ら問題は生じない。
ところが、到着の場合は多種多様なメール便が混在す るため、センサーを固定できず、その結果、仕分け機 から排除されたり、誤ったシュート口に投下されてし まう恐れがある。
OCRで読み取れない場合はVCS(ビデオ・コー ティング・システム)を使って仕分けコード(郵便番 号もしくは宅急便コード)を手入力すればいい。
ただ し、それだけ作業効率は落ちることになる。
「新サー ビス開始で取扱個数が増えることに大きな期待を寄せ ているものの、その一方でどのような種類や形状の荷 物が集まってくるのか不安な面もある。
自動仕分けで クロネコメール便の輸送の流れ 依頼主 届け先 集荷 発営業所 輸送 輸送 配達 輸送 発ベース店 宅急便 着ベース店 着営業所 宅急便 ?SD(宅急便のセールスドライバー) ?専属社員(メール便専門) ?クロネコメイトや個人事業主(業務委託) 配達員は3タイプ ?自動仕分け機 (フラットソーター) NEC製で投資額は約3 億円。
処理能力は1時間 当たり3 万通。
最大 600方面の区分けが可 能だ。
処理の対象サイ ズは最大400×300× 30mm(B4大)〜最 小140×90×1mm (はがき大)。
重さ10g 〜1300g ?自動供給部 矢印?の部分に並べられたメー ル便は機械で自動的に矢印?の OCR(オプティカル・キャラク ター・リーダー=光学式文字読取 装置)に送り込まれる。
OCRは メール便に印字もしくは手書き された郵便番号と住所を読み取 る。
その後、メール便は郵便番 号に基づいて仕分けされる。
厚 さ3cm以上など規定外の冊子は 区分集積部に送り込まれる手前 で除外される仕組みになっている ?VCS(ビデオ・コーディング・システム) OCRで読み取ることができなかったメール便の郵便番号や住所を画 像を見ながら仕分けするシステム。
オペレーターはパソコン画面を見 ながら、郵便番号もしくは社内仕分けコードを専用キーボードで入力 していく。
オペレーターは1人当たり1時間に3000件を処理できる という ?区分集積部 矢印1部分に設置されたプラスチックコンテナが満載になると、ラン プが点滅して自動的に仕分け機内部を走っている「ケース払い出しコ ンベア」に搬出される。
現場作業員は搬出後に空コンテナを補充する ?仕分けスペース メール便で満載になったコ ンテナはコンベアを経由して 仕分けスペースに搬送され る。
作業員はラックに用意 された営業所別の段ボール 箱にメール便を種蒔き式で 区分していく(到着分) ヤマト運輸 北東京ベース店 ? ? ? OCTOBER 2002 20 きない荷物が膨大な量になり、現場が混乱する可能性 も否定できない」と江谷氏は打ち明ける。
自動仕分け機の稼働率を上げて現場の生産性を高 めるためには、形状などが統一されたメール便を出荷 する大口ユーザーの開拓が不可欠になる。
ただし、そ こには大きな落とし穴がある。
ロットがまとまれば、 その分割引率が大きくなり、結果としてメール便の一 個当たりの単価下落に直結してしまうからだ。
既にその兆候が出てきていることは過去の実績を見 れば明らかだ。
二〇〇一年度のメール便事業の売上 高は五八四億四四〇〇万円(前年比四・九%増)。
こ れに対して取扱個数は五億七二四一万個。
一個当た りの単価は一〇二円だった。
基本料金の最低額であ る一六〇円を大幅に下回っている。
大口を狙えば単価が下がり、小口化すると現場の 生産性が落ちる。
「宅急便でも同じような問題に直面 した。
それをどう克服していくかがメール便の成否の カギを握っている。
いずれにしても郵便局に負けない 現場づくりに取り組んでいかなければならないのは確 かだ」と江谷氏は気を引き締めている。
一日に二一〇〇万通を処理 ヤマトのライバル、郵便局が誇る大型拠点の代表格 は江東区新砂にある「新東京郵便局」だ。
首都高速 湾岸線の「新木場インターチェンジ」から車で約五分。
明治通り沿いに位置する。
施設は敷地面積は八万平 方メートル、延べ床面積一〇万平方メートルの事務 棟地下一階・地上六階建て、郵便棟地上三階建て。
小 包局も併設している。
稼働は九〇年八月。
それまで首都圏の郵便ネット ワークの中核拠点としての機能を担っていた「東京中 央郵便局」、「晴海通常郵便集中局」、「東京輸送郵便 局」の三局が狭隘化・老朽化したことに伴い拠点を 新設、機能を集約した。
全国から集まってくる郵便物 を主に二三区内の集配局五九カ所向けに区分けする 業務、逆に二三区内から出される郵便物をまとめ、全 国各地の中継局に幹線輸送する業務などを担当する。
この日本最大の郵便局には実に全国シェアの約三 〇%の郵便物が集結するという。
一日平均の郵便物 取扱量は二一二五万通に達する。
これを職員九〇〇 人、パートタイマーである「ゆうメイト」九八〇人の 計一八八〇人で処理している。
一日当たりの取扱個 数、従業員数、施設の規模、マテハン機器の充実度 ではヤマト運輸の北東京ベース店のそれをはるかに凌 駕している。
ところが、現場での作業の進め方など細 かい部分にまで目を配ると、課題も散見される。
実は新東京郵便局の稼働を機に、郵便では従来の 輸配送システムを大幅に見直している。
それまで郵便 の輸送容器といえば、麻製の袋だったが、これをプラ スチック製コンテナに切り替えた。
さらに、プラスチ ック製コンテナをロールボックスパレット(カゴ車) に積んで幹線輸送する体制にした。
つまり、ヤマト運 輸の「宅急便」とほぼ同じ輸配送システムを採り入れ たのである。
それによって、郵便物の仕分け作業の機 械化・自動化を一気に進めた(囲み記事参照)。
ただし、実際に現場を歩いてみると、「宅急便」と 比べ郵便のカゴ車の積載効率はそれほどよくないこと に気づく。
写真からも分かるように、発送待ちのカゴ 車には?空気〞の部分が目立つ。
これには理由がある。
例えば、コンテナと同じ容積 の小包があったとしよう。
小包は重くてもせいぜい二 〇キロ。
これに対して、コンテナの場合は一〇〇〇通 の封書が入ると一通一〇〇グラムとしても一〇〇キロ の重さになる。
一〇〇キロのコンテナを八つ載せると 新東京郵便局の作業フロー 手区分場 小型開披場 特殊・国際開披場 把束 区分機 国際 区分場 自動読取区分機 ビデオコーディングシステム 到着パレット開披場 ケース移載機 ケース区分機 大型区分場 パケット区分機 保冷郵便室 小包区分機 エレベーター エレベーター 到着 到着 大型郵便物区分機 ビデオコーディングシステム 特殊 区分場 無人搬送車 棚区分場 ケース 移載機 パレット搬送 ケース搬送 21 OCTOBER 2002 カゴ車は一台八〇〇キロ。
人手によるトラックへの積 み込み・積み卸し作業は容易ではない。
「こうした郵 便特有の問題があって、どうしてもカゴ車に空きスペ ースが発生してしまう」と新東京郵便局の岡田勝彦 調査課上席課長代理は説明する。
値下げで冊子小包が急増 今回のメーンは郵便部分への取材だったが、特別に 小包局の区分場にも案内してもらった。
仕分け機や作 業フローなどは民間の宅配便事業者のそれとほとんど 同じ仕組みだ。
因みに、同局の一日当たりの小包取 扱個数は一七万八〇〇〇個。
民間のクール便に相当 する「チルドゆうパック」は七〇〇〇個。
そして、料 金見直しで全国的に取扱個数が急増している冊子小 包は一日平均一万個。
今年に入ってから前年比五〇% 増という驚異的な伸びで推移しているという。
局舎をまわって特に印象に残ったのは玄関の壁に貼 られた二枚の大きな紙だった。
そこには、「忙しくないセクションにたくさんの作業員が配置 されているような気がする。
改善すべきだ」(ゆうメ イト)。
「ご指摘の通りです。
改善するよう努力します」(管 理者側)。
こんなやり取りが一〇項目ほど並べてあった。
これ は局内に設置している意見箱に寄せられた現場業務の 問題点の指摘と、それに対する改善策を報告するため の掲示板なのだという。
「公社化後をにらんだコスト 削減に向けた活動の一つ。
民間企業と同じように、こ うした地道な改善活動をコツコツと積み重ねていくこ とで、黒字体質をつくっていかなければならない」と 岡田上席課長代理。
現場で働く人々の頭の中は既に 郵政公社モードに切り替わっているようだ。
特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 新東京郵便局の種類別郵便物取扱個数 小  型 大  型 小  計 速  達 書  留 速達記録 翌朝10時 船  便 航空便 20,125 464 490 83 6 85 21,253 1,933,008 859,411 2,792,419 189,598 84,231 82,513 5,542(袋) 26,988 57,458 3,233,207 144,036 35,338 179,374 7,011 (小郵袋8,808) 2,077,044 894,749 2,971,793 196,609 84,231 82,513 5,542(袋) 26,988 57,458 3,425,134 8,861 30,702 39,563 4,114 (大郵袋・ケース9,117) 普通 特殊 外来 総合計 取扱物数 (バラ物数+把束通数換算) 単位:千通 バラ物数 (通) 把束数 (束) 取扱物数 (通+束) ケース数 (個) ― ― ― ― ― ― ― ― 186,385 43,955 区分 種別 平常日一日の取扱物数 ※取扱物数総合計には、小郵袋及び大郵袋は含まれない ? ケース移載機 全国から届いた郵便物 の入ったケースは、ここ で自動的にカゴ車から 取り出されて種類別の 用意された区分機に向 かう。
この機械は差立 (物流業界でいう発送の こと)の際には逆にカ ゴ車にケースを積み込 む役割も担う ?パケット区分機 定形外の厚物の封書を 区分する。
キーパンチャ ーが1通ずつ仕分け番号 (郵便番号)を打ち込む。
その後、封書は各シュー ターへと落ちていく ?新型区分機 ヤマト運輸がメール便 で導入している仕分け 機と同じ機能を持つ。
区分機供給目標の「1 時間当たり8000通」 という数字もヤマトと まったく同じ ?無人搬送車 物流センターでよく 見掛ける無人搬送車 も導入している。
同 局では到着した特殊 郵便物を区分場まで 運ぶ際に無人搬送車 を活用中 ?把束区分機 郵便番号別に区分、把束された状 態で到着した郵便物を仕分けする。
パケット区分機と同様、キーパン チャーが1束ずつ仕分け番号(郵 便番号)を打ち込む ?棚区分 はがきなどの小型郵便物は人手によって棚を使 って区分される。
その後、把束区分機、ケース 区分機などを経て、差立バースに向かう ?差立準備完了 郵便では物流業界でいう発送を差立(さした て)と呼ぶ。
方面別に仕分けされた郵便物は専 用のカゴ車に積まれて出発時間を待つ。
差立バ ースには方面別に運行ダイヤが吊されている 新東京郵便局 マテハン機器の処理能力 小包区分機 小型通常把束区分機 郵便番号自動読み取り区分機 大型パケット区分機 新型大型郵便物用区分機 ケース自動移載機(取り卸し) ケース自動移載機(積み込み) 6,000個 10,800通 32,000通 8,000通 30,000通 1,200ケース 900ケース 1台の1時間当たり

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